青の追憶 10

元の世界に戻る手がかりはあの山にはなかった。

以前考えたように特別な力を持った人を探すしかないのだろうか。 ハヴィス城にいるとしても、その人と出会う事は簡単ではないと思う。 それくらいは私にもわかる。 ハヴィス城で働いている訳でもないし、知り合いがいる訳でもない。 接点が全くない。

とりあえず、聞くだけ聞いてみるか。

私は近くで本を読んでいたルースに声をかけた。

(セイディさんはウィリーと一緒にお風呂だ)

「ねぇ、ルースはハヴィス城って行った事ある?」

「なんだ? いきなり」

「ハヴィス城の事が知りたくて」

「ハヴィス城?」

ルースは何でそんな事を聞くんだ、という表情をしている。

「そう。偉い人はお城にいるでしょう?」

「偉い人って国王の事か」

「ちょっと違う。巫女とか神官とか不思議な力を持っていそうな人」

「ミコ……?」

「あ、巫女ってこっちでは呼ばない? じゃあ、神官はいる?」

「神官は城にいるだろうな」

「やっぱりいるんだ。どうやったら会える?」

「普通は会えないだろ」

「だよね……」

はぁ……とため息をついた。

ダメだ、何か方法を考えないと。

とにかくお城で働いている人とかと知り合いになれないだろうか? そうしたらちょっとは情報が入ってくると思うんだけど。

「神官に会ってどうするんだ?」

「どうするって、元の世界に帰る方法を知っているか聞くのよ」

「気がついたらここに居ました、なんて話、誰も信じないと思うけど。第一、簡単に会えない」

「私もそう思う。ルース、なんか良い方法知らない?」

「俺が知るわけないだろ」

一気に突き放された。

「一緒に考えてよ」

「嫌だ」

「そんな事いわずに」

「面倒くさい」

そう言うと、ルースは読んでいた本に視線を落とした。

ちょっとは協力してくれたっていいじゃない。

会話をしてくれるようになったのは嬉しいけれど、なんというかやはりどこか距離をおかれているような気がする。

「そんなに元の世界に戻りたいのか?」

本に視線を落としたまま言う。

「そりゃそうでしょ。ずっとここに居られるとは思っていないし」

「そう」

「だから何か方法考えてよ。いかにも不思議な力持っています、的な人と知り合いになる方法を」

「無理なんじゃない? じゃ、俺はもう寝るから」

それだけ言うと、さっさと2階に上がっていってしまった。

なんて薄情な……。

でも、自分でなんとかするしかないか。カリーナさんの宿にはいろんな人が来るから、そこから情報収集するのが一番いいだろう。 仕事の合間をみて少しずつ聞いてみよう。

♣ ♣ ♣

「ハヴィス城? 私は行ったことないけど」

「城の中に一般人は入れないぞ」

「知り合いの中にハヴィス城に勤めている人はいないわ」

「観光でもしたいの?」

「大きな行事あるときだけ、国王は民衆に姿を見せるのよ」

「城の中に入ったことがある人はあまりいないと思うよ」

「神官の能力? さぁ、国の未来を占うとかかなぁ。祭りの時に何かしているらしいけど」

ハヴィス城について聞いてみると、だいたいこんな返事が返ってくる。

一般人の城への出入りは原則禁止。使用人も厳選されている。国王ファミリーなど、偉い人達はめったに姿を見せない。もちろん神官も姿を見せない。要するに、みんなあまり城の内部の事は知らないらしい。当たり前といえば当たり前の答えだった。

にしても、城で働いている人もそんなにいないとは……。やはり外部の者をたくさん雇うと、身の危険とかいろいろあるだろうし、身元がしっかりしている人しか雇えないのだろう。どんなに情報を集めても、出てくる答えは私が期待しているものとかけ離れているものばかりだ。うーん、困った……、と唸りながらシーツを干している時だった。

「やぁ、サラ。こんにちは」

挨拶をしながら裏庭に入ってくる男性が一人。

「今日もよく働くね。ちょこまかと動き回っている姿を見るのは楽しいけれど」

褒めているんだか、けなしているんだか分からない。

「こんにちは。フレッドさんはお仕事ですか?」

「そう。いつもの荷物を届けにきたんだ」

フレッドさんは宿にいろいろな荷物を届ける仕事をしている。誰とでも気さくに話すタイプで、私にも声をかけてくれる。いつも爽やかな笑顔で誰にでも優しい。会社にいたらモテるんだろうな、と思う。というか、ここでも人気あるんじゃないかなぁ。

「さっき聞いんだけど、ハヴィス城に行きたいんだって?」

「はぁ、まぁ」

曖昧な返事で答えた。

ハヴィス城に行きたいんじゃなくて、城の中にいる(と思われる)神官に会いたいのだ。

「僕が連れていってあげようか?」

「はい?」

「だから、城に行きたいんだろう? 案内してあげるよ」

「いえ、フレッドさんもお忙しいと思いますし……。気にしないでください」

私はやんわりと断った。城を外側から見ても意味がない。

「実は、何回か城の中に入ったことがあるんだよ。こういう仕事だし」

「本当ですか!?」

さっきとは打って変わって、私はその言葉に飛びついた。

「ど、どんな感じなんですか? お城で働いている人とお話したことあります? 神官の従者とかと知り合いだったりしません?」

お城の情報を聞きだせるかもしれない、と私は質問責めをした。

「……神官の従者ってやけにそこだけ具体的だね。どうして?」

「え? あ、あぁ、いえ、その、たまたまです。はい、深い意味はありません」

意外と細かいところに気が付くな、とか思いながらしどろもどろに答えた。

そんな私を不思議そうに見た後、フレッドさんは言った。

「明日、荷物を届ける事になっているんだ」

「!! お、お願いします、私も連れて行ってください!」

「うーん、どうしようかなぁ」

「私に出来ることならなんでもしますからっ!」

「そこまで言うなら仕方ないな」

フレッドさんは笑いながら言った。

「ありがとうございます!」

「じゃあ、明日サラの仕事が終わる頃に迎えにくるから」

「はい! 待ってます」

私は鼻息荒く答えた。

フレッドさんが帰った後、私はやったー! と一人小さくガッツポーズ。

ちょっと諦めかけていただけにすごく嬉しい。まさかいきなり城の中に入れるチャンスが訪れようとは。

まぁ、城の中に入ったところで神官に会えるとは思っていない。だけど、誰かと知り合いになれれば、神官の能力を知ることが出来るかもしれない。

時空や空間を捻じ曲げることができる強大な力。私が探しているのは、そういう力を持った人だ。もし、城にいる神官にそういう力がないのならはっきり言って用はないので、他の方法を探すだけだ。と、思ったけれど、他の方法については全然検討がつかないので、城にいる神官にすごい力があることを私は心から願った。

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