青の追憶 17

「話を戻します。ハヴィスは人口が多いので、20代の女性という情報だけでたった一人の人間を探すのは大変でした。それでも地道に街の人から話を聞いたりするしかなかったのですが……」

「どうして、その人間がサラだとわかったのですか?」

「一週間程前に、サラさんが働いている店で揉め事がありましたね? その時の話を、店にいた人から兵が聞いたのです」

「お客さんと少し揉めただけですよ?」

私は口をはさんだ。

「問題はそこではありません。重要なのは“店で働いていた女の子がケガをしたけど、一瞬で治っていた。別の女の子もケガをしていきなり具合が悪くなっていた”と聞いた事です」

そういえば、アレシアの傷がいつの間にかなくなっていたんだっけ。バタバタしているうちに忘れてしまっていた。

「それが重要な事でしょうか? 私はたまたまアレシアのケガの治りが早かっただけ、と解釈していますが」

セイディさんが尋ねる。

「だいたいの人がそう思うはずです。擦りむいただけだから治りが早いのだろう、と。ですが、擦り傷だろうとそんなに早くは治りません。それと、もう一人の女性がいきなり具合が悪くなったという所も気になったので、その日の事を調べました。一部始終を見ていた人間はたくさんいたので、その人たちに聞いたのです」

お客さんが騒いでから私がお店の奥に引っ込むまで、周りにはたくさん人がいたし話は簡単に聞けたのだろう。

「擦り傷を負ったのがモーリス夫妻の娘、アレシアさんですね。そして、もう一人の女性がサラさんでした。サラさんがお客さんをかばってケガをした事や、その後急に体調を崩された事など、お客さんがいろいろ話してくれました」

「でも、それだけではサラが違う世界から来た人間だなんて分からないと……」

「ほぼ確信しています」

そう言いながら、私の顔を見た。

「アレシアさんの擦り傷が一瞬で治ったのは、サラさんの血に触れたからでしょう」

「私の血……ですか?」

「先ほど、リヴィエの力が弱まったとき、水晶に血を与えよ、と文献に書いてあった、と言いましたよね。違う世界から来た人間の血には、力があるのです。回復させる力と言ったほうが分かりやすいでしょうか。サラさんの血を水晶に与える事でリヴィエの力が戻る。同じように、傷を負った人にも効くはずです」

「そんな」

セイディさんは信じられないように呟く。私も同じ心境だ。

「ただ、私も実際にその場にいた訳ではないので確かめなければいけません。城に来てもらうのはその為です」

長い話が終わって、ジェラルドさんが一息つく。

確かにあの時、アレシアの手は私の血で赤くなっていた。でも、それでケガが治ったと言われても簡単には信じられない。

セイディさんも何かを考えているのか、黙り込んでいる。

「……今のお話が本当かどうか確かめるには、サラが城に行くしかないのですか?」

セイディさんがジェラルドさんに向かって質問をした。

「そうです」

「血を注ぐ……、とおっしゃっていましたが、危なくはないのですか?」

「大量の血を注ぐわけではないのですが、サラさんの身体に負担がかかるのは避けられません」

「どのような負担が?」

「まず、血が流れるので貧血が考えられます。あとは、疲労です。アレシアさんの傷を治したとき、具合が悪くなりましたよね。あれと同じことが起こります」

「……具合が悪くなるような事をさせるなんて出来ません。他に方法はないのですか? 第一、違う世界の人間の血を注ぐだけで、本当にリヴィエの力が戻るなんて」

「それを確かめるためにも、一度城に来てもらいます」

ジェラルドさんは繰り返して言った。

セイディさんはため息をつく。

「なんだか話がとんでもない方向に進んでいるけど……。私は、この話を断ってもいいと思うわ」

私を見ながらハッキリ言った。

神官のジェラルドさんを目の前にして、そういうセリフを言えるなんてすごい。普通、言えないですよ。

 

「セイディさん、そういう事をおっしゃられては困ります」

ジェラルドさんの口調が少し冷たくなった。

ついでいうと、後ろに立っている二人の男性も、冷ややかな目でセイディさんを見ている。そんな視線を浴びながらもセイディさんは強かった。

「リヴィエが大切な事は分かります。私だってこの国に生きていて、リヴィエを信仰している訳ですから。ただ、こちらの都合で勝手に違う世界の人を呼び出しておいて、協力しろなんて都合が良すぎませんか? 先に他の方法を探すべきです」

セ、セイディさん、かっこいい。惚れそう。

「すでに探しました。だけど、止められない。だから最後の方法に頼るしかないのです」

ジェラルドさんの表情が曇る。

「……」

セイディさんも辛そうだ。自分が生まれ育った国。大切に決まっている。でも、セイディさんは私が大変な事に巻き込まれるのも嫌なんだろうなぁ。いつも私の心配をしてくれる。

「サラさん、あなたはいろいろと城の事や神官について聞いていたそうですね?」

ジェラルドさんが突然言った。

「は、はい」

「いきなり違う所に来たら元の所に帰ろうと方法を探すはずです。あなたも自分なりに戻る方法を探していたのではないですか?」

「……はい」

「それなら話が早くすみそうです。協力してくれるのなら、元の世界に戻る方法を教えてあげましょう」

「え!?」

「これでセイディさんも納得していただけますね?」

「そんな事を言ったら、サラは行きます、と言うに決まっています。卑怯だと思わないのですか?」

ジェラルドさんは静かにセイディさんの言葉を受け止めている。それよりも、後ろに立っている二人の気配というか雰囲気が変わった。

城の神官ってすごく偉いのだろう。そんな人に向かって卑怯、なんて言っちゃったら無礼者!って感じになるのだろうか。でも、私はそういう事を臆せずに言うセイディさんをますます尊敬しちゃうわ。

「卑怯、とはまた厳しい言葉ですね」

「そう思わないのですか?」

「まったく思わない訳ではありません。ですが、私の仕事は国を平和に保つことです。サラさんには申し訳ないと思いますが、この国で暮らしていたなら、少しは協力していただいてもいいのでは?」

セイディさんは首を小さく振った。やりきれない感じってこういう事をいうのだろう。

「セイディさん、私、行ってきます」

「サラ!!」

「行かないと本当かどうか分かりませんし。それに、帰る方法を教えてくれると言われたら……、やはり断れません」

「でも、あなたの身体に負担がかかるって」

「寝れば大丈夫ですよ。たぶん」

「たぶんって……」

めちゃくちゃ疲れそうな予感がするけど、とにかくやるしかない。

私はハヴィスの街が、ここで出合った人達が好きなのだ。その人達の役に立てるのなら協力してもいい。そして、帰る方法を教えてもらえればいい。

そう単純に思っていた。

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