青の追憶 18

ジェラルドさんの話を一通り聞いた後、私は早速城に行くことになった。

セイディさんが一緒に行きたいようだったけど、さすがにウィリーを一人にする訳にはいかず、家で待つことになった。

馬車は、セイディさんの家から少し離れた所にひっそりと止めてあり、ジェラルドさんとお供の二人と私が乗り込む。ウィリーと遊んでくれたホゼアさんは、馬車を前方に座る。御者だったのか。

馬車って初めてだし、窓から外の景色でも楽しもうかな、と一瞬思ったんだけど結局やめた。夜だからあまり見えない。それに、雰囲気が暗い。軽々しく「私、馬車初めてなんですよ。シンデレラのかぼちゃの馬車とか憧れました。あ、シンデレラって私の世界にある物語なんですけど」と、世間話をする状況じゃない。これが女の子同士だったらいいのに。馬車だよ、馬車! 王子様に会えるのね! とかなんとかくだらない話で盛り上がれるんだけどなぁ。

そんな事をぼーっと考えていたら、ハヴィス城に着いた。

城内の端に馬車は止められ、そこから城の中までは徒歩。ジェラルドさんの後ろに私が続き、その後ろにお供の方がついてきた。

城の中に入ってからは、何度も廊下を曲がり、階段を上ったり下りたり……。最初は道順を覚えようと、壁にかかっていた絵とか、装飾品を目印に歩いていたんだけど途中であきらめた。もういいや。たぶん来る事ないだろうし。観光気分で城の中を楽しもう、と思った時に、ある扉の前に到着。

「ここは?」

「教会です」

ずいぶんと質素な……。

「シンプルなんですね」

「あまりにも小さいから驚かれたでしょう? 正式な教会は別のところにあります。そちらは、行事などにも使われるので、大きいです」

やっぱりそうだよね。この部屋がメインの教会な訳ないか。

「ここは城で働いている者のために造られました」

そう言いながら、部屋の左奥の扉の前に立った。

「バートとセスはここで待っていなさい。あと、私達が戻るまで城の者をこの部屋に入れないようにしてください」

お供の二人、バートとセスっていう名前なんだ。

私は後ろをチラリと振り返ると、「はい」と二人は硬い表情で返事をした。

「サラさん、こちらです」

ジェラルドさんが扉のノブに手をかける。普通の扉に見えたんだけど、よくみると鍵つきだった。そんな重要な部屋なの? と中を覗いたら、使われていない(と思われる)机とか椅子とか棚とかが雑然と置いてあるだけだった。鍵をかけるほど大切な物があるとは思えない。

「ここで血を注ぐのですか?」

疑うように聞いてしまう。

「いえ、ここは違いますよ。通り道です」

ジェラルドさんは、いろいろな物を間を通り抜けながら説明してくれた。私もその後に付いていく。意外と広い部屋だなぁ。さっきの教会の2倍はある広さだよ。どうして物置のほうが広いんだろう。設計まちがったんじゃないの? と、失礼な事を考えてしまう。

ジェラルドさんは、壁際にある白い像の前で立ち止まった。

あれ? もしかして、これってリヴィエの像なんだろうか? 優しい笑みを浮かべた女性の像。なんか……マリア像みたい。

この像とても綺麗だし、こんな所に置いていないでさっきの教会に飾ればいいのに、と思いながら見ていたら、ジェラルドさんが石を取り出して像のくぼみにはめた。そして壁の一部をグッと押す。あ、壁が凹んだ。すると今度は数メートル先の壁がスライドして通路が現れた。

「すごい仕掛けですね」

思わず言葉がこぼれた。

「この城にはいくつかこういう仕掛けがありますよ。ただ、ここは少し特別ですね。像に嵌め込む石が必要なので」

「はぁ、そうなんですか」

お城だから、こういう仕掛けが一つや二つあってもおかしくないのかもしれない。不謹慎ながら、少しワクワクしてしまった。そういう状況じゃないけれど、ヒミツの通路ってやっぱり気になるじゃない。先には何があるんだろう? って。

通路をまっすぐ進むと階段に突き当たった。らせん状の階段が上に向かってのびている。階段を上がりきるとまた扉があった。ジェラルドさんは鍵を使ってその扉を開ける。

「この部屋は、城の中央にあります」

5メートル四方のほぼ正方形の部屋だった。

「あれにサラさんの血を注いでもらいます」

ジェラルドさんの視線の先には、透明な石があった。

「その石は宝石ですか?」

「水晶ですが、宝石としての価値はあまりありません」

水晶と言われると、占い師が持っている球状でガラス玉のようなイメージが浮かんだ。だけど、ここにある水晶は、単純に岩から掘りましたという見た目でゴツゴツしている。ただ、とても透き通っていて見る角度と光によって表面が虹色に輝いた。

「綺麗ですね」

ジェラルドさんは、わずかに頷いた。

「この水晶は全部で五つあります。その内の一つがハヴィス城にあるこの水晶です。リヴィエはこれらの水晶を通して、アルヴィナ各地を守護しています」

へぇ、そうなんだ。あ、そういえば日本にも似たようなのがあったような気がする。江戸城を守るためにお寺を各地に建てたってテレビで見たような……。それと似たような事かな。

「サラさんには、水晶に血を注ぐことによってリヴィエの力を戻してもらうことになります」

「あの、血を注ぐというのは、こう、ダラダラ流れるくらいに必要なのですか?」

「そうですね……。大量には必要ないかと思われます。が、やってみないと分からないというのが本音です」

結局やってみないと分からないのね。

「こちらに来ていただけますか?」

「はい」

「この短剣で、親指に傷をつけてください」

「親指?」

「それぞれの水晶は、決まった指先から力を与えることになっています」

「そうなんですか」

理由は聞いてもたぶん理解できないと思ったので、とりあえず頷いておいた。

「では、早速行いますか?」

伺うような口調で言われた。

まぁ、もともとそのつもりで来たのだし、ズルズルしてても仕方ないよね。やる事はさっとやってしまおう。

「はい、やります」

美しい装飾がされた短剣が手渡された。小さいのになぜか重い。

「あまり深く傷つけると辛いと思いますので、気をつけてください」

気をつけてくださいって言われても、結局傷をつけるならどうしようもないんですけど。そんなツッコミをひそかにしつつ、私は右手に短剣を持ち、左手の親指に刃先を滑らせた。

「いたっ……」

思わず声が出てしまう。力は入れていないに、皮膚が簡単に切れた。なんて切れ味の良い短剣なんだ。

血が指先からにじみ出てくるのを確認すると、

「その親指で水晶に触れてください。私が“良い”と言うまでそのままでお願いします」

と、ジェラルドさんが神妙な表情で話す。

私は無言で頷き、水晶に親指をそっとあてた。その瞬間、身体がグラっと揺れた。

……な、何なの? この感覚。

アレシアが私の血に触れた時も似たような感覚があった。だけど、それは一瞬だったのに。今回は全然違う。力が抜ける感覚が強い。少しでも気を抜くと倒れる、と自分でも分かった。

血がドクドクと流れている感じはない。だけど、力が吸い取られるこの独特な感覚はかなり堪えた。くっ、と歯を食いしばり私はひたすら終わる時を待った。

 

 

「サラさん、もう良いです」

ジェラルドさんの声が少し遠くから聞こえた。返事をする元気もなく、私はその場に座り込む。

「これで証明されてしまいましたね」

何が? と一瞬思った。

「サラさん、あなたの血はリヴィエの力を復活させることが出来ます」

あぁ、そうだった。私の血が本当にリヴィエの力を戻せるかどうかも試していたんだっけ……。

そう思うと同時に、意識が薄れた―――。

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