青の追憶 19

「ま ―― 目を ―― ない ―― か?」

「えぇ、―― シア ―― 同 ―― い。 ―― 動か―― よ」

誰かの声が聞こえてきて、意識が少しずつ浮上する。

……あれ?

見慣れた天井が視界に入る。

私はベットに寝ていた。

……ここって私が借りている部屋だよね。なんでここに?

私、ハヴィス城に行って、水晶に血を……。で、その後はどうしたんだっけ?

左手を動かして顔の前に持ってくると、親指に包帯が巻かれていた。これ、あの時の傷。

ゆっくりと起き上がる。

あ、服もそのままだ。いい加減着替えないと。着替え、着替えは……とタンスに近づきながら、なんか身体が重いな、と思った。なんだろう、寝すぎ?

 

着替えたあと一階へ降りた。

階段を下りている途中で誰かが居間から出てきた。

「サラ!」

ルースだった。

「え? サラが起きてきたの?」

ルースの後ろからセイディさんが出てくる。

「良かった」

セイディさんはそう言うと、私を包み込むように抱きしめてくれた。

 

お茶を飲みながらセイディさん達の話を聞いた。

私はあの日の夜中に帰ってきたらしい。ジェラルドさん達が、眠ってしまった私を馬車で連れてきてくれた、との事。で、そのまま丸一日以上眠り続けて今に至る。

そんなに寝ていればそりゃ身体も重いよな、と一人で納得してしまった。

「あの、ジェラルドさんは?」

「サラが起きたら連絡ください、と言って帰ったわ」

「何か言っていましたか?」

「後できちんと話します、とだけ」

今後のことはこれから話すのかな。

「城で何があったんだ?」

ルースが言った。

「何……って、セイディさんから聞いてない?」

「リヴィエの力を戻すために、サラの血が必要だ、っていう事は聞いた」

「そっか。まぁ、簡単に言うと、指先を切って血が出てから水晶に触れて終わり。その後は寝ちゃったから分からない」

「水晶?」

「なんかね、リヴィエは水晶を通してアルヴィナを守っているんだってさ。だから、それに血を注ぐ事でリヴィエの力を回復させるらしい」

「そうなのか。……指先を切ったのか?」

「これ。ジェラルドさんが手当てしてくれたんじゃないかな。記憶ないけど」

左手を見せると、セイディさんとルースの眉間に皺がよった。

「どうしたの? 二人とも」

「サラ、あなた傷が増えるばかりじゃない。この間の腕の傷だって完全に治っていないのに」

セイディさんが言う。

「そんなに大きい傷じゃないですよ」

「そういう問題じゃねぇだろ」

ルースが呆れたように言った。

そうかなぁ。気にするような事でもないと思うけど。

「傷もそうだけど、サラの身体に負担がかかりすぎているのが気になるわね」

セイディさんは呟く。

「え?」

「一日以上眠っていたのよ? 普通じゃありえないわ。それだけ、身体に負担がかかっているって事でしょう?」

そうなのかもしれない。寝たら回復するので、あまり気にしていなかったけど、この先もっと辛くなるのかもしれないんだよなぁ。体力つけておけばよかった。いや、体力の問題じゃないか。

「とにかく、ジェラルドさんが来てから詳しいお話を聞きましょう。ルース、外で待っていてくれたお城の人にサラが起きたって伝えたのよね?」

「あぁ」

「ジェラルドさん達はいつ頃来るって言っていたの?」

「夜になるそうだ」

「そう。……待つしかないわね」

セイディさんの表情は暗かった。

♣ ♣ ♣

「各地にある水晶の所へ行ってもらいます」

静まり返った部屋に、ジェラルドさんの声が響いて聞こえる。

「今回の事で、サラさんの血がリヴィエの力を戻せることは証明されました。でも、ハヴィス城だけの水晶だけではまだ足りません。他の水晶にも同じようにしてもらいます」

「偉そうに言いやがって」

ルースがイラついたように言う。

いや、ルース。ジェラルドさんは城の神官だからかなり偉い人なんだって。そんな口調で話すと何かとヤバイよ。

「ジェラルド様、この男をここから退出させましょうか?」

ほら、ジェラルドさんのお供の人、怒ってるじゃん。

「いいのですよ。ルースさんの言う事もわからなくはありません」

ジェラルドさん冷静だなぁ。神官ってみんなこんな感じなのかな。

「サラさん」

改まった口調で呼びかけられた。

「はい」

「あなたの力が必要です。各地に行っていただけないでしょうか?」

「はい。行きます」

「「サラ!!」」

セイディさんとルースの声が両サイドから聞こえる。

「お前、決めるの早すぎるぞ!」

「そうよ、口では血を注ぐだけ、なんて言っているけど、どんな事をさせられるのか分からないのよ?」

二人ともすごい剣幕だ。

でも、私は決めていた。

「私は自分に出来ることをしたいだけです。それにほら、帰る方法も教えてくれるみたいですし」

そう言ってジェラルドさんを見た。

「えぇ、そうです。すべてが終わったらその方法をお教えいたします」

「今、言えよ」

ルースがジェラルドさん達を睨みながら言う。

「……それは出来ません」

「なんでだよ?」

「今、方法をお教えして、サラさんが帰られては困ります」

「なんだよそれ。サラが行かないって言ったら、方法も教えない気だったんだろう?」

「そうですね。我々としては、サラさんには何が何でも各地に行ってもらう覚悟でいましたので」

ジェラルドさんはあっさり認めた。

「結局サラが行くのは最初から決まっていたようなものじゃねーか」

ルースはまだ睨みつけている。

あ……、ジェラルドさんのお供の二人がすごく怖い表情でルースを睨んでる。効果音をつけるならバチバチって火花散ってるよ、これ。

「お二人がどんなに止めても、サラさん本人が“行く”と言っているのです。これ以上、この事について話す必要があるのですか? それに、リヴィエの力がなくなったら困るのはアルヴィナの国民全員です。それでも行くな、とおっしゃるのですか?」

ジェラルドさんは冷静で穏やかだけど、言う時は言う。しかも手厳しい。

ルースもセイディさんも何も言えないようだった。

「大丈夫ですよ。長期旅行だと思って行ってきます」

私は明るく言った。

「お前は物分りが良すぎる」

ルースがやれやれと首を振った。

 

「では、具体的にこれからどうするか、ですが……」

そう言いながらジェラルドさんは地図を広げた。これ、アルヴィナの地図だ。

「ハヴィスの街はここです。ハヴィスを含めて全部で五箇所。印がついている所に行ってもらいます」

私達は全員で地図を覗き込んだ。印がついている所は見事に散らばっている。

「町、もしくは村の教会に水晶はあります。各地についたら教会を訪ね、神官に会ってください」

「神官ですか?」

「はい。教会には必ず神官がいます。それぞれの教会の神官にハヴィス城から正式な書簡を送っておきます」

「なるほど」

「あとは、そこの神官の指示に従ってください」

「わかりました」

私は頷いた。

「さて、いろいろと準備が必要なのですが、だいたいの物はこちらで用意いたします。サラさんは身の回りの物だけ持っていただければ大丈夫です。それと、重要な事なのですが」

ジェラルドさんはそこで一度言葉を切った。

「案内役、兼、サラさんの護衛として一人つけます」

「案内役?」

「サラさんはアルヴィナの事を詳しくは知らないでしょう? 旅もされたことがないはずです。道も分からないのに、一人で行かせる訳にはさすがにいきません」

「そうですね」

言われてみればその通りだ。私一人じゃ次の町まで行けるかどうかも怪しい。

「この旅は極秘扱いなので、ひっそりと各地を訪れてもらうことになります。大勢の兵でサラさんを護衛する訳にはいきません」

それはそうだ。兵がゾロゾロと行進していたら、何だ? と思うのが人間だ。

「今回の事を知っている者、秘密を守れる者、アルヴィナの地理に詳しい者、そして、サラさんを守れるくらいの力がある者、となると人数はごくわずかしかいません」

ジェラルドさんが一緒に行くのかな? と思った。

「サラさん、この二人のどちらかを選んでください」

と言って後ろに立っているお供の二人を見た。

「え?」

私はお供の二人を凝視してしまった。ジェラルドさんじゃなくて、この二人なの?

「バートとセスは旅慣れていますし、特に問題はないでしょう」

「は、はぁ」

どっちがバートさんでどっちがセスさんなのか、それさえも分からない。

私は改めて二人を見た。左側の人は黒髪で目つきが鋭くて、さっきルースに「この男」と言った人だ。右側の人はほとんど声を聞いた事がない。いつも静かに立っている。髪の色も瞳の色のもグレーでどことなく冷たさを感じた。とにかく二人とも体格は良くて、いかにも強そうって感じではあるんだけど近寄りがたい。間違いなく、気軽には話せない。

というか、二人とも無表情で怖っ。どちらかと長期旅行……、いや旅をするのか。正直参ったなぁ。女性はいないのかな。それをジェラルドさんに聞いてみようと思った時だった。

 

「俺が行く」

私のすぐ隣から声が聞こえた。

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