青の追憶 21

私達はおしゃべりをしながら街を歩き回った。

たわいのない話をして、冗談を言い合って、笑って……。

そういう時間がとても楽しかった。

「また明日ね」

「気をつけて帰ってね」

手を振りながらアレシアとキャロルが言う。

「うん、また明日ね。今日はとっても楽しかった。二人ともありがとう」

「やーね。お礼なんか言わないでよ」

「ただ一緒に出かけたかっただけだから」

二人は少し照れているように見えた。

私は二人の後姿を見送った後、歩き始めた。

 

夕陽がハヴィスの街を赤く染める。

人々で賑わうお店を横目に見ながら私はゆっくり歩いていた。

もうすぐ出発なんだよなぁ。旅、本当に大丈夫かな。危ない事とかないといいんだけど。

あ、ダメだ……。また暗い方向に考えてる。大丈夫、きっとなんとかなる。私は思い直した。

少々楽観的すぎるかもしれない。だけど、こうでもしないと嫌な想像ばかりしてしまって、収拾がつかなくなる。

私はそれが怖かった。

旅に出て、各地をまわって、水晶に力を注ぐ。ハヴィスに戻ってきたら、ジェラルドさんに帰る方法を教えてもらって、日本(かハワイ)に帰る。それだけだ。

私は自分に言い聞かせるように、大丈夫、と心の中で呟いた。

♣ ♣ ♣

セイディさんの家の前まで来た時、玄関の近くに女の子が俯きながら立っているのが見えた。

誰だろう? と思いながら近づくと、その子はハッと顔を上げた。

知らない子だった。髪の毛を一つに結び、リボンでとめている。気の強そうな瞳が印象的だな、と思った。

「あなたに話があるんだけど」

いきなり言われた。

「私? セイディさんじゃなくて?」

この子とは初対面だ。

「そうよ。セイディさんに聞いたら、あなたはまだ帰ってきてないって教えてくれたから待ってた」

「そ、そう。えーと、家の中に入る?」

「外の方がいいわ」

「じゃあ少し先にある公園に行こうか」

「えぇ」

公園のベンチに座ると、女の子が話し始めた。

「私の事、知ってる?」

私は首を振った。どこかで会ったという記憶もない。

「そう」

「えーと、名前は?」

「ベリルよ」

「ベリルちゃん、ね」

「子供扱いしないで」

ピシャリといわれた。どう考えても、この子の方が年下なんだけどな……。

「じゃあベリル。私に話したいことって?」

「話したい事というか、聞きたい事があるの」

「何?」

「ルースはあなたの事が好きなの?」

「え?」

なんでその話題? というか、その聞き方おかしくない?

「どうなの?」

「ルースが私の事をどう思っているかは……、分からない」

正直に答えた。

「ルースが難民のあなたを連れて帰ってきたっていうのは本当?」

「それは、本当」

正確に言うとちょっと違うんだけど、難民としての私はそういう経緯でハヴィスにいることになっているから、そう答えた。

「あなたはルースの事どう思っているの? もちろん、恋愛感情で」

「……」

恋愛感情としてどう思っているか? と聞かれると、答えに詰まる。前も思ったけど、よく分からないというのが本音だった。

「答えられないって事は、恋愛としては好きじゃないと思っていいのね」

「今は、そういう事をあまり考えられないから……」

誤魔化すように答えた。

「自分の故郷が気になってそれどころじゃないって言うの?」

「故郷?」

「親戚を探すために村に帰るから、そっちが気になっているんでしょ?」

「あ、あぁ、そうね。うん。そう」

「ずるい」

「ずるい?」

「そうよ。だって、ルースの事が好きでもないのに、行くあてがなかったからハヴィスに来たんでしょ?セイディさんの家にまでおしかけて。それなのに、やっぱり親戚が気になるからいきなり村に帰るなんて……、気持ちは分からなくもないけど、調子が良すぎない? だったら最初から来なければいいじゃない」

胸がズキっと痛んだ。

「ルース、長期の休みを取るって言っていたのよ。どのくらいで戻れるか分からないから、迷惑なら辞めさせられても構わないって。私のパパはルースの事を気に入っているから、そんな事はしないって言っていたけど。……ルースは護衛の仕事を長期で休むなんてこと、今まで一度もなかった。だから問い詰めたの。どうしてそんなに長い間、休みをとるの? って。そしたら……あなたを故郷に送っていくから、って言っていたわ」

一気に言われて、少し頭が混乱した。

ええと、ルースが休みをくださいって言ったんだよね。ベリルの父親がルースの上司になるのかな。

「ルース、世話好きな所があるし、あなたの事を放っておけないのも分かるけど、私は納得できない。どうしてルースがそこまでしなきゃいけないの? って思う。あなただって子供じゃないんだし、一人で帰ることくらい出来るんじゃない?」

「それは……、そうだね」

本当は一人で旅は無理だけど、一緒に行動するのは絶対ルースじゃなきゃいけない、って事はない。

「なら、ルースに一人で帰れるから平気だ、って言ってみてよ。そうしたらルースも考え直すかもしれない」

私を見るベリルの表情は真剣だった。この子……。

「ねぇ、ここまで言えば分かると思うけど」

「うん」

「私、ルースが好きなの」

「……うん、分かる」

「はっきり言うと、ルースと一緒にいて欲しくない。だから、村に帰ると言うなら一人で帰って欲しい。これ以上、ルースに迷惑かけるのは止めて」

息を呑んだ。

「……分かった。さっきの事、ルースに言ってみる」

声を絞り出して答えた。

ベリルはその答えを聞いて満足したようだった。

「じゃあ、私は帰ります。ちゃんとルースに伝えてください」

それだけ言うと公園から出て行った。

 

夕暮れの公園に静けさが戻る。

私はベンチに座ったまま、視線の先にある花壇を見ていた。

ベリルに言われた「ルースに迷惑かけるのは止めて」という言葉が、頭の中から離れない。

本当は言い返そうかと思った。“私の事を何も知らないくせに、あなたに何が分かるのよ”というお決まりの言葉を。だけど言えなかった。

生活も仕事もすべてセイディさんとルースに頼ってきた。最初は、出来るだけ迷惑をかけないようにしよう、なんて思っていたくせに、全然守れていない。

それに、ルースの安全を考えるなら、バートさんかセスさんと旅をしたほうがいい。セイディさんがなんと言おうと。

とにかく帰ろう。ルースとセイディさんに説明して、それからジェラルドさんにお願いしてみよう。出発は3日後だけど間に合うかな……。

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