青の追憶 23

「ただいま」

「おかえりなさい。あら、ルースも一緒だったの?」

セイディさんが居間から出てきた。

「あぁ、そこで会ったんだ」

ルースが答える。

「そう。あ、そうだわ、サラ。ベリルに会った? あなたに会いたいって来たのよ。外で待ってますって言っていたんだけど」

「あ、はい。会いました」

「ベリルが来たのか? 何で?」

「え? えーと……」

ベリルはルースの事が好きなんだって。だから、ルースが私を村に送っていくのが嫌みたい。なんて私の口から言える訳がない。

「ルースの事が心配だから、よろしくお願いします、みたいな事を言われたよ。ルース、人気者だね」

と、冗談っぽく答えた。半分くらいは本当の事なんだけど、ちょっと苦しい答え方だったかも。

私の言葉を聞いた二人は一瞬「え?」と驚いたような顔をした。

そして、セイディさんはふふっと意味ありげに笑い、ルースは戸惑った顔をした。

「ベリルってルースと同じ所で働いているんでしょ?」

「あぁ、ベリルは父親の仕事を手伝っているからな。会う事はあるけど心配されるほどじゃ……」

「同じ所で働いているから、仲間でしょう。だから、遠くまで行かなきゃいけないルースを心配していんだよ」

「何で今更。仕事で遠くに行く事は何度もあったぞ」

「いつもなら一緒に行動するのが護衛の人だから言わないんだよ。今回は違うから」

「そうか? でも、それをわざわざサラに言うことないだろ。俺が弱いみたいじゃないか」

「分かってないわねぇ、ルース」

セイディさんが会話に加わった。

「何が分かってないんだよ。普通に考えたら、ベリルがサラに俺の事を言うのはおかしいだろ?」

「もういいわ。昔からそうだったけど、あんたってほんと鈍いわね。女心がわかんない鈍感男」

「なんでそこまで言われなきゃならないんだ」

完璧にむくれていた。いつも思うけど、ルースはセイディさんに弱い。見ている分には、二人のやりとりは結構面白いんだけど、ここで笑うとまた話がこじれるのでこらえる。

「色々あるのよ。色々」

「訳わかんねぇ」

どうでもいいや、と言わんばかりの表情で、ルースは2階に上がっていった。

 

「サラ、ちょっと」

セイディさんが手招きしている。

「さっきは上手く話を誤魔化していたようだけど、ベリルと何かあったんでしょ?」

小声で聞かれる。

「やっぱり分かります?」

「えぇ。わざわざ家まで来て“ルースの事をよろしくお願いします”なんてありえないわ。ルースはあの通り鈍いから全然分かってないけど。ベリルってどうやらルースの事が気になっているみたい」

セイディさん、よく知ってるなぁ。どこからその情報を聞いたんだろう?

私は苦笑しながら答えた。

「“ルースの事が好きだから、一緒にいて欲しくない。村には一人で帰れるとルースに言って”と言われました。あ、これベリルとルースには内緒でお願いします」

「もちろん。にしても、いきなりすごいわね。サラはなんて答えたの?」

なんだか楽しそうだ。

「ルースに言ってみるって言いました」

セイディさんの瞳が一瞬大きくなる。

「サラ! 何で素直に聞いているの」

「その時は思ったんです。ルースの事を思うのなら、一緒に行かないほうがいいかなって。迷惑かけたないし」

「迷惑じゃないわよ。ルースだってそれくらいは分かるわ」

「さっき、ルースにもそう言われました」

「え? ルースにもう言ったの?」

「はい、出発はすぐですし。バートさんかセスさんと行こうと思うって言ったら怒られました。“迷惑じゃない。信じろ”って」

「やるわね、ルース」

「私もルースと一緒に旅をしたほうが、気が楽なのは本当だったし……。また甘えているだけで悪いんですけど、ルースと行きます」

自分の思いを伝えた。

「それでいいのよ。あなたはちょっとまわりに気を使いすぎよ」

気を使いすぎって事はないと思うなぁ。

「ベリル、何か言ってくるかしら……。あの子、ちょっとキツイ所があったから。修羅場にならないといいわね」

セイディさんはいたずらっぽく笑いながら言ってくる。

「大丈夫です。私は大人の女ですよ? 修羅場の一つや二つ経験……」

「してるの?」

「……してません」

今までのほほんと生きていたから、修羅場らしいものに出会ったことがない。いや、それでいいんだけどね。

「サラは巻き込まれたら、身を引きそうなタイプよね。今回は頑張ったじゃない」

「今回は旅の事ですから。恋愛みたいに身をひくも何もないと……」

「ベリルはそう思っていないわよ。サラに対しての嫉妬がすごいと思うわ。頑張ってね」

頑張ってね、って満面の笑みで応援されても。

「ただ単に一緒にいるのが納得出来ないって感じでしたし、嫉妬までしないんじゃないでしょうか?」

「甘いわよ、サラ」

「そうですか?」

「ベリルって積極的なのよ。実際にね、ルースは何度か誘われて一緒に食事をしたらしいわ」

「だったら尚更、私に嫉妬なんてしないんじゃ……」

セイディさんはそこでまた微笑んだ。

「それがね、サラがここに来てからはないみたいなの」

「? ルースがいない時って結構ありましたよ」

「それは仕事よ。まぁ、断定は出来ないんだけどね。でも、最近は“ベリルと食べてきた”っていう言葉を聞かないのは本当よ」

それはたまたまであって、私が来てからとか関係ないと思うけどな……。

「ベリルはいきなり現れたサラにびっくりしたでしょうね。その上、一緒に暮らしててルースと仲良くしている。これは嫉妬もするわよ。今まで何も言ってこなかったのは、様子を伺っていたのかしら?」

「はぁ」

セイディさんの推理(?)はどんどん進む。

「ルースは自分の気持ちに気がついてくれないし、一緒に食事をする機会もなくなってしまった。極めつけがサラを村に送っていくために仕事を休む、でしょうね。仕事で会えなかったらそれこそほとんど接点がなくなっちゃうわ。そこで、サラに言いに来たのね。恋する乙女は強いわ」

確かに強い。いきなり私に“ルースが好きだ”と言うくらいだし。

「なんで、ルースに気持ちを伝えないんでしょう?」

私は不思議に思っていた。ベリルくらい積極的なら、すでに告白していると思ったからだ。

「そこがよく分からないのよ。ベリルならすぐに気持ちを伝えていそうだと思ったんだけど。……そうね、もっとルースと仲良くなってからって考えていたのかもしれないわ。そうこうしている内にタイミングを逃しちゃったのかしら? そしたら、サラが出てきてますますタイミングを逃した、とかありえるわね」

私って邪魔者なんだなぁ。つい微妙な表情をしてしまう。

私の様子に気がついたのか

「あ、ごめんなさい。最近、周りにこういう話がなかったからつい調子にのってしまって……。とにかくね、ベリルが何か言ってきたとしても気にする必要はないって言いたかったの。あとね、このまま会わないようにするのも 一つの方法よ。サラとルースが旅を終えて帰ってくる頃には、ベリルの気持ちが落ち着いているかもしれないし」

セイディさんに言われてはっとした。

ルースと一緒に行くことをベリルに言わなきゃと思っていたけど、会わずに済むならそれもいいかな、と少し考えていた。

ルースに言う事は言った。その結果、一緒に行くことになったんだから仕方ない。あとは、このままベリルに会わないようにやり過ごして、旅に出ちゃえば何も言われずに済む、と。

……私って臆病者だな。

ベリルはあの時真剣だった。本当にルースの事が好きだから、私にキツい言葉で言ったのだろう。だったら、私も自分の気持ちを伝えるべきなのでは? ……やっぱり会ってこよう。

「ベリルと会ってきます」と伝えるとセイディさんは「真面目ね」と言った。

「明日、仕事の帰りに行くので、住所教えてもらえますか?」

「直接対決ね」

クスクスと笑いながらベリルの家の地図を書いてくれた。

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