青の追憶 25

その日の夜、私は荷造りをする事にした。

明日はジェラルドさん達がここに来て、最後の打ち合わせ(みたいなもの)をする。その席で、まだ用意していないんですよ、なんて言ったら冷たい視線が飛んできそうだし。あまり持ち物がないとはいえ、そろそろ準備したほうがいい。

まずは、着替えだよね。長期の旅になるから、丈夫で動きやすい服が必要だ。といっても、いつも着ている服しかないし、それを持って行こう。本当はワンピースみたいな服も持っていきたいけど、スカートを着るような場面はないと思うからこれらは全部置いていくしかないよなぁ。気に入っていただけに残念。

次は、化粧品類かな。でも、ほとんどない。こちらの人はあまり化粧をしないから、私もいつもノーメイクだった。

唯一あるのが、手作りの化粧水だ。乾燥する所につけるのよ、とセイディさんが教えてくれた。ロアナという葉っぱ(見た目はしその葉にそっくり)をきれいな水に浸して1日置くと出来上がり。簡単だからこちらの女性はこの手作り化粧水を使っている人が多い。最初は乳液がないと肌がカピカピになる!と思ったけど、この化粧水、結構すごかった。乳液がなくても平気だったからだ。自然の力はすごいなぁ、と妙に関心してしまった事を思い出した。という訳で、この化粧水だけを持って行こう。肌のお手入れはしておいたほうが良いに決まってる。

あとは……、こちらに来たときに身に着けていた服と持ち物かな。

タンスの一番下の引き出しに、まとめて置いてある服とバックを取り出した。Gパン、Tシャツ、パーカーは目立つから、という理由でハヴィスでは一度も着ていない。バッグには財布、ポーチ、ガイドブック、デジカメなどが入っている。デジカメでハヴィスの街やセイディさん達を撮りたかったけど、何故か電源が入らなかった。充電はしてあったのに。腕時計も地震が起きた時の時刻を指したまま止まっている。原因不明だけど、修理もできないしどうしようもなかった。

これらの荷物を持って行くかどうか迷ったけど、なんとなく置いていく気にはなれなかったから持って行くことにした。

それ以外の必要そうな物はジェラルドさんが用意してくれそうだなぁ。身の回りの物だけ、と最初から言われていたけど、本当にその通りだ。

「サラ!」

バタン!とドアが開いたかと思うと、ウィリーが飛び込んできた。そのまま小走りで私に激突。う、ちょっと痛い……。

「どうしたの?」

ウィリーを受け止めながらたずねる。

「村に帰っちゃうってホント?」

旅のことは、まだウィリーに言っていなかった。

「この子、話を全部聞かずに飛び出しちゃって」

セイディさんが、部屋の入り口に立っていた。「サラ、本当なの?」とウィリー。

「うん。でも、……戻ってくるよ」

その後、本当に帰っちゃうけど。

「いつ戻ってくるの?」

「ミスナ村は遠いから、いつ戻ってくるか分からないんだ」

「えー、大丈夫?」

「大丈夫。ルースも一緒だから」

安心させるようにウィリーを抱きかかえる。成長しているんだろうなぁ。前より重くなった。

「ルースも一緒なの?」

「うん、そう。道案内してくれるって」

「ルースが一緒なら安心だね!」

「そうだね。ルース強いんでしょ?」

「わかんない!」

おーい、分かんないってどういう事?

「この子、ルースが実際に戦っている所を見たことないのよ。だから」

セイディさんがクスクス笑っていた。

そ、そうなのかぁ。でも、セイディさんが前に“ルースは結構強い”って言っていたから平気でしょう。

「僕、ルースのところに行ってくる!」

ウィリーは元気よく言った。私が床に降ろしてあげると、タターッと走っていく。隣の部屋の方からバタン!と音がしたと思ったら「ルース!」と聞こえた。「何だよいきなり……っうぐ」と聞こえるあたり、どうやらルースもウィリーに飛びつかれたようだ。「危ねぇだろ!」とルースの焦った声が廊下に響く。

「ウィリーはルースに任せちゃって……」と言いつつ、セイディさんが部屋のドアをパタンとしめた。

「で、サラ。ベリルとは何を話したの?」

セイディさんは無邪気な笑顔をみせた。

私は、夕方の事を手短に話す。

「自分の言いたい事だけ言って、帰ってきました。ベリルに分かってもらえた……とは思えません」

「分かりたくても素直にはそう思えないんでしょうね」

「ベリル、本当にルースの事が心配なんですね。ルースが無事に戻ってこなかったら呪い殺すって言われちゃいました」

「呪い……殺す?」

「はい」

「すごいわねぇ。変な意味で感心しちゃうわ」

あらあら、と肩をすくめた。

「冗談だと思いますけどね」

「当たり前よ。それにしても、ベリルはそんなにルースがいいのかしら?」

「セイディさん、ルースってモテると思いますけど、今までそういうのなかったんですか?」

「ない訳ではないと思うけど……。本当の所はよく分からないの。ルースがああいう感じだから、私に恋愛相談するとは思えないし」

「それもそうですね」

「ただね、サラ。あなたがここに住んでいるのって、ルースを知っている人達からみたら、驚いた事らしいわ」

面白そうにクスっと笑った。

「そうなんですか?」

「えぇ。ルースって恋愛というか女性に対して淡白なイメージがあるみたい。だから“あのルースが?”って何度か聞いたわ」

時々、ルースの態度に戸惑う事はあるけれど、基本はあっさりしているタイプなんだろうなぁ。

「みんな、ルースの事をちょっと美化しすぎだと思わない?裏ではやらしいかもしれないのにね」

自分の弟の事をそういう風に言ってしまうなんて、やっぱりセイディさんは面白い。

「ところでサラ、荷造りしていたの?」

部屋の様子を見て、セイディさんが言った。

「はい。そろそろしておかないと……。もうすぐですし」

「ちょうど良かったわ。あなたに渡したい物があったのよ」

と言って、小さな袋をとりだした。

「これね、貧血に効く果物なの。乾燥させているから長持ちするわ。少しずつでいいから毎日食べてね。大きな町にはたいてい売っているから、無くなったら買うのよ」

「ありがとうございます」

思わず涙がこぼれそうになった。

「今更だけど、……本当にごめんなさい。巻き込む事になっちゃって」

「そんな事ないですよ。自分で行くって決めたんですから」

「……よく考えたんだけどね、神官がサラを呼び出してしまったことで、あなたはアルヴィナの問題に巻き込まれたわけでしょう?そもそもアルヴィナの問題はアルヴィナの人達で解決するべきなのに……。平和に暮らしていた あなたを無理矢理巻き込んでしまったこと、やっぱり申し訳ないと思うわ。それを止めることが出来ない自分も情けなくて……。結局あなたに頼っているから」

「セイディさん」

「サラには、あ、一応ルースもだけど、やっぱり危ない事とかに巻き込まれて欲しくないわ。無事に帰ってきて欲しいと心から思っている。でもね、こういうのって初めての事だから、なんか胸騒ぎがするのよ」

「気のせいですよ」

不安を押し込めて私は言った。

……本当は私も胸騒ぎを感じている。大丈夫なのだろうか?無事に帰ってこられるのだろうか?と何度も考えている。ちょっと心配しすぎなだけだよね。行ったら行ったでどうってことないじゃんって旅になるよね、と自分で気持ちを落ち着かせる事を繰り返していた。

「私とウィリーはここで待っているから、ちゃんと帰ってくるのよ?それからあなたのお別れパーティーをして、自分の国に帰ればいいんだから。約束よ」

「……はい」

私は笑顔を見せた。

セイディさんは、私の目を見つめながら「待ってるからね」と繰り返した。

TOPに戻る