青の追憶 34

「たかーい!」

「すげぇ!!」

幼い妹と兄が歓声を上げる。馬に乗るのは珍しい事じゃないと思うけど、こんなにはしゃぐという事はレイモンドは普通の馬と違うみたいだ。見た目が美しいというのは私にも分かる。だけど、たぶんそれだけではないのだろう。

「騒ぐと落ちるぞ」

ルースが言っても二人には全然届いてない。レイモンドの上ですごいすごいと興奮している。ルースは半ば諦めたように二人を見た後、手綱を軽く持ち直して歩き始めた。

なんでさっきの子達がレイモンドに乗っているかというと、成り行きとしかいいようがない。

私達を人攫いと勘違いしていた男の子に説明をして、なんとか分かってもらった後、送って行くことになったのだ。

「家は塔がある方向なんだよね?」と聞くと「教会の隣」とムスーっとしたまま男の子が答えたからだ。

「じゃあ一緒に行こう」

「なんで?」

「私達は教会に用事があるんだよ」

「ふーん」

こんなやりとりがあった後、男の子は黙ってしまった。まだ疑っているのだろうか。

すると今まで黙っていた女の子が「おにいちゃん、おうまさん」と男の子の服を引っ張っていた。「ダメ」と男の子が首を振ると「やだー」とさらに引っ張っている。

「レイモンドに乗りたいのか?」

ルースが問いかける。女の子はコクコクと首を縦に振った。そうとう乗りたいらしい。ルースが女の子を抱えてレイモンドの上に乗せると男の子があ! と声を上げた。

「お前も一緒に乗るんだよ」

と、男の子も素早く抱え上げてレイモンドに乗せていた。男の子はルースを見ながら何か言いかけて、プイッと顔を逸らす。

「お前なぁ、子供なら子供らしく素直になれよ。ウィリーを見習え」

あの、この子はウィリーの事知らないし……。

そんな事を心の中で思っていたら、ルースは「行くぞ」とゆっくり歩き始めた。私もアクアの手綱を持って後を追う。アクア達は手綱を持たなくてもきちんと付いてくるんだけど念のためだ。

しばらくは黙ったままレイモンドに大人しく乗っていた男の子だけど1分もしない内にはしゃぎ始めた。女の子と一緒に「この馬すごい!」と嬉しそうだ。いつも見ている景色もレイモンドの上からだとまた違ってみえるらしく、キャッキャッと二人の明るい声が響く。緑豊かな村に可愛い建物、馬に乗った男の子と女の子。後ろから見ていると映画のワンシーンにも見えてくる。のどかでいい風景だ。

私がのん気な事を思いながら歩いていたら、あっという間に教会に着いた。私はレイモンドの左側にアクアを止める。

ルースはレイモンドの右側からまず女の子を下ろした。

「ありがとうー」

「少し離れてろよ。ほら、次はお前の番だ」

と言うと、今度は男の子に手を伸ばす。さっきまで機嫌が良かったのに、なぜかまた黙り込んでしまった男の子はルースから顔を背けた。

「お前……」

ルースが何か言いかけたとき、いきなり男の子が私とアクアがいる方に飛び降りた。

私が立っていた場所が悪かったのか、もろに飛び込んでくる。

「わっ!!」

男の子を受け止めながら、ドスンとしりもちをついた。この子にはさっきから体当たりされてばかりだ……。

お尻痛い、と思いつつ男の子を腕の中に確認する。「だ、大丈夫?」と声をかけるとバツの悪そうな顔をしながらも、うんと頷いた。ルースが慌てた様子でこちら側に走ってくる。

私から男の子をベリッと剥がすように立たせると「いきなり飛び降りたら危ないだろ!」と叱った。さすがにマズイと思ったのか、気まずそうに俯いている。私は洋服についた泥を払いながら「まぁまぁ、ルース。そんなに言わなくても」と間に入ると「サラ。お前も動きが鈍い。素早く避けろよ」と私も怒られた。それは無理。

「ごめんなさいっていわないとダメなんだよー」

妹に言われると男の子も強気には出られないらしい。小さな声だったけど「ごめんなさい」と聞こえた。ルースに対しては反抗的というか生意気な態度をとっても、妹の前では素直で良いお兄ちゃんの姿を見せたいのかもしれない。そういえば、最初から妹を守るぞ! という気合いだけはあったな。……ならなんで妹とはぐれるようなことになったのかは気になるけど、二人とも子供だしなぁ。気が付いたらあれ? どこ行った? なんてことはよくありそうだ。

「気をつけろよ」

とルースが再度言うと、またプイッとそっぽを向いた。ルースの表情がピキッと強張る。子供だから我慢だ、と思っているようだ。分かりやすいなぁ。

エルシーと呼ばれた女の子が「ただいま!」と教会に隣接しているログハウスみたいな家に入っていく。木材がたっぷり使われた温かみのある家だ。それにしても普通の一軒家にしてはやけに大きいな。

男の子は私達をジーッと見た後、家の中に入る。えーと、一緒に中に入っていいのかな。

「中に入ろう」

ルースが言った。

「勝手にいいのかな」

「いいんじゃないか? というか、ここ宿だ」

「そうなの?」

全然分からなかった。普通の家にしては立派だったのは、宿を経営しているからなのか。木製のドアを開けて中に入ると、ちょうど女の子が母親と一緒に奥の扉から出てきた。

「すみません、この子達が迷惑をかけたみたいで」

私達を見るなり謝ってきたので、そんな全然、と首を振る。

「レイモンドねーきれい!」

女の子は母親の手を握りながら元気に話している。

「ここに2、3日泊まりたいのですが」

ルースが話しかける。

「まぁ、ありがとうございます。この村には旅行で?」

「教会に用事が」

と私は答えた。

「あら、巡礼の人ね」

ジュンレイ? と聞きかけたとき「そうです」とルースが答えていた。

「ゆっくりしていってください」

とにこにこしながら言った。

 

「ジュンレイって聖地とかを訪ねる巡礼のこと?」

「あぁ。リヴィエが奉られている所に行く人が結構いるんだよ。旅行も兼ねてな」

「へぇ、そうなんだ」

私は日本のお遍路を思い出していた。イメージとしては間違っていないはずだ。

「もっともらしい理由だろ」

「そうだね。そういう理由なら教会に行っても全然怪しまれないし。ここって巡礼で有名な村なの?」

「いや、そうでもない」

ふーん、水晶があるから有名という訳でもないんだ。というより、この村に水晶がある事を知っている人自体少なさそう。キセの街の神官が水晶は隠し部屋にあって他の人には内緒って言っていたしなぁ。

「今日はもう休んで明日教会に行くか?」

「ううん、すぐ行く」

「今からか?」

「そう」

「……じゃあ、行こう」

教会に行った後は眠ってしまうし、休むのならそれだけでいい。

さっき、ルースの話を聞いてからのんびりとしている場合ではない、と今更ながら思った。出来るだけ早く水晶の所に行き、リヴィエの力を回復させなければ。

私にはそれしか出来ないのだから。

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