青の追憶 4

目を開けると、木の天井がぼんやりと見えた。

あれ? 私が泊まっていたホテルってこんな天井だったっけ? そう思いながら視線をずらして部屋を見る。

「……あ」

記憶が少しずつ戻ってきた。

そうだ、私、いきなり知らない街にいたんだっけ。ゆっくりと起き上がり、窓をぼんやりと眺める。

コンコン。

控えめな音が響いたあと、ドアが開いた。

「あら、起こしちゃったかしら?」

ウィリーのお母さんだ。

「いえ、今、ちょうど起きた所です」

「そう、良く眠れた?」

「はい」

「昨日よりは顔色もよくなったわね。朝ごはんは食べられるかしら?」

「はい、いただいてもいいですか?」

昨日のお昼以降、ほとんど食べていなかった私は少し空腹を感じていた。

「もちろん。じゃあ、着替えたら下に降りてきてね。井戸の場所は分かるわよね? あと、あなたが昨日着ていた服だけど……、やっぱり泥がたくさんついているわね。今はコレを着てくれる?」

そう言いながら服を渡してくれた。

「あ、ありがとうございます」

「いいのよ、じゃあまた後で」

そういうとウィリーのお母さんは部屋から出て行った。

私は受け取った服を広げた。ウィリーのお母さんの服かな。シンプルな形のワンピースだった。

私は窓を開けて朝の空気を思いっきり吸って伸びをする。気分も悪くないし、頭痛もない。うん、昨日よりは落ち着いているみたいだ。とりあえずホッとした。

この状況は受け入れるしかないのだろう。

漠然と思った。

正直に言うと今すぐ帰りたい。だけど、そう簡単には戻れないんだろうなぁと感じていた。だから受け入れるしかない。

よし、着替えて顔を洗ってご飯をいただこう。それからいろいろ話を聞いてみるか。私はそう自分に言い聞かせ、窓を閉めた。

「本当に昨日はごめんなさいね。ウィリーがご迷惑をかけて」

ウィリーのお母さんが、私のカップに紅茶(らしきもの)を注ぎながら話しかけてくる。

「昨日はルースも一緒だから平気だと思っていたんだけど、結局はぐれて……。まったくルースはいったい何のために一緒に行ったのよ?」

そう言って、ウィリーのお母さんはお父さんを睨んだ。

お父さんは“ルース”という名前らしい。

「俺は悪くねーよ。ほんの少し目を離した隙にウィリーがどっかに行ったんだから」

パンを食べながらルースさんが言った。

「だから目を離さないで、とあれほど言ったじゃない」

「はいはい。俺が悪かったです。昨日、散々謝ったじゃないか」

「その態度は何? ウィリーだけじゃなく、このお嬢さんも危険な目に遭ったのよ。あんた腕に自信があるなら二人とも守りなさい!!」

「なんで、そういう話になるんだ」

ウィリーのお母さん、見た目とのギャップが激しいな。おしとやかで優しいお母さんだと思っていたんだけど、 話し出すと止まらないタイプらしい。

逆にウィリーのお父さんは、なんか子供っぽい。さっきからブツブツと文句を言っている。

ちなみにウィリーは食べる事に夢中で、両親の会話を聞いていない。

私は思わず笑ってしまっていた。

ウィリーのお母さんとお父さんがハッと気づく。

「あら、ごめんなさいね。お客様の前でみっともない所を見せてしまって」

「セイディが一人で騒いでいるだけだろう」

「ルース。後で覚えていなさいよ」

おぉ、ウィリーのお母さん強い。

「仲が良いご夫婦なんですね」

「「え?」」

二人が同時で私を見る。

「いや、だからウィリーのお父さんとお母さんは仲がいいなぁ。と」

私は二人を交互に見ながら言った。

「私がルースと夫婦?」

「俺がセイディと夫婦?」

……。

「ちょっとやめてよー」

「冗談がキツイ」

二人が同時にしゃべった。

え? え? と二人の顔を見る私にむかって、ウィリーのお母さんが苦笑しながら言った。

「ルースは私の弟よ」

「弟?」

「セイディを嫁にもらうなんて真っ平だ」

「ルース」

セイディさんの目がキラリと光る。

「そういえばちゃんと挨拶していなかったわね。もう分かっていると思うけど、私はセイディ。この子はウィリー。私の息子よ。で、こっちの役に立たない男が弟のルース」

「役に立たないは余計だ」

「本当の事でしょう? 昨日の事を考えれば全然役に立ってないじゃない」

セイディさんはあっさり言った。ルースさんは、クソッしつこいな……とか何とか言っている。

うーん、面白い。

「で、あなたの名前はなんていうの?」

「私は菊池沙良です」

「キクチ……、サラ?」

二人が顔を見合わせた。

あ、もしかして苗字言うのは変だった? ついクセで言ってしまった。

「あのっ! サラです、サラ!!」

私は慌てて言いなおした。

「サラね。可愛い名前ね」

「ありがとうございます」

ちょっと外人っぽい名前でよかった。

「ごちそうさまー! 」

突然、ウィリーが言った。

「お姉ちゃんサラって言うんだね。ねぇ、いろんなところに案内してあげるから一緒に遊ぼうよ! 」

目をキラキラさせながら言ってくる。

「あ、ありがと」

いきなりのお誘いにビックリしながら答えた。

「ウィリー、ママはサラとお話があるから、今日はお友達と遊んでいてくれる?」

セイディさんが少し真面目な表情で言った。

「うん、いいよ。じゃあ僕はアビーの所に行ってくる。サラ、また後でね!」

そう言いながら走っていった。

ウィリー、朝から元気だなぁ。

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