青の追憶 43

村を出発して、私達は次の町へと向かった。

「ヨタハの町は行った事あるんだっけ?」

ルースに尋ねる。

「あぁ。結構大きくて有名な所だからな」

「へぇ、そうなんだ」

「ヨタハは観光客が多いんだ。雰囲気はキセの町に似てる」

キセの町かぁ。胸元のペンダントをそっと見る。私がとんでもない勘違いをしてルースに怒られたんだっけ。

「何が有名なの?」

「教会だな」

「巡礼の人が多いんだ」

アルヴィナでは巡礼する人が多いから、特に変わったことではない。

「まぁそんな所だ。5つの教会巡りが人気らしい」

「教会巡り……」

「小さい冊子を買って、各教会に行くと印がもらえるんだ。5つ集めるとお守りがもらえる」

宗教的な正式名称があるかもしれないけど、それって要するにスタンプラリーみたいなものだよね。どこの世界でもこういうのは人気あるんだ。

「お守りがもえらるなら私達も参加してみる?」

実はスタンプラリーとか結構好きだったりする。日本でも旅先でこういうイベントがあった時、スタンプは記念にもなるしやってみない? と友達を誘うことも多かった。たいていスタンプというのは、その土地の観光スポットに置いてあるものだ。

「参加するのは構わないけど最低でも5日かかるぞ。水晶の所に行くのを考えたら10日はヨタハに滞在する事になる」

「5日!? ヨタハの町ってそんなに大きいの?」

それってハヴィスよりも広いじゃない。

「いや、町自体は1日もあれば十分回れる」

「じゃあなんで5日もかかるの? あ、教会が町の外にあるのか」

「教会は全部町の内側だ」

ますます分からない。それだったら1日で全部回れるじゃない。

「印は1日に一つの教会からしかもらえない、という制約があるんだ。だから5つ全部集めるには最低5日かかる」

「なんでそんな面倒な事……」

「最低5日は滞在してもらおう、と町の人たちが考えたんだろ。長く居てもらえればそれだけお金を使ってもらえるからな」

「それはそうだけど、観光客から文句とか出たりしないの?」

「それが逆に好評らしい。1日に一つだけ、というのがご利益があって良いってな。あと、最後にもらえるお守りが思いの他良い出来らしくて、こんなに良いお守りがもらえてしかもリヴィエの御加護も受けられるなら5日くらいたいしたことないって所なんだろ。ヨタハはメシも美味いし教会以外にも楽しめるから何度来ても飽きないって聞いた事がある」

なるほどねーと感心してしまった。

世界が違うとはいえど、基本的には私が居た所と何も変わらない。みんな町を活性化しよう、生活を楽しもう、と毎日頑張って生きてるんだ。

「見えてきたぞ。あれがヨタハだ」

遠くからヨタハの町を見たとき、どっかで見たような感じがした。町の中心に山(丘? )があって、その上には教会らしき建物が建っている。その山を取り囲むように家々があるのだ。えーと、えーと……。あ! あれだフランスの有名な観光名所に似てる! 写真でしか見たことないけど、名前はモンサン……ミッシェルだっけ。海に囲まれているように見えたけど、潮が引くと陸とつながるとガイドブックかなんかで読んだ事がある。荘厳な修道院のバックにある薄紫の空と異様に大きい満月がやけに印象的だった。

「やっぱり人が多いね」

ヨタハの町を歩いていると、目に映るのは多くの観光客だった。教会巡りは大盛況らしい。すれ違う人々の手の中に小さな手帳みたいな冊子を見かける事があった。

「私達が行くのはあの教会だよね。山の上にあるから景色がいいんだろうね」

「まぁそうだろうな。町を一望できる場所にあるし」

ルースが教会を見上げながら言う。

確かに教会巡りの最後の締めにふさわしい感じがする。というか、教会巡りに順番は関係ない。だからどこから回ってもいいんだけど、山の上の教会を最後にする人が多いらしい。町の教会をいろいろ巡って最後に一番景色の良い所でお守りと交換する、という考えはなんとなく分かる。私もそうしそうだしなぁ。

「サラ、登り坂になるけど歩けるか? 無理そうなら今日はやめて明日にしよう」

「たぶん平気」

「辛くなったら言えよ」

本当はアクアに乗って教会まで行こうと思っていた。だけど宿に行く前に山の麓の門に寄ったら“この先は徒歩でのみ通行を許可する”という内容の立て看板があったからアクアに乗るのを諦めた。山の上にある教会へと続く道は道幅が少し狭い上に坂道になっている。馬に乗ったまま上っていくのは危ないのだろう。

そういう理由でアクアとレイモンドは宿でお休みだ。今回もルースはこのメインの教会から近い宿をすばやく見つけてきた。温かくて家庭的な雰囲気の宿だ。

「じゃあ、行こうか」

私は一歩を踏み出した。

観光名所というだけあって人は多い。ちょっとしたハイキングみたいになっていてみんな坂道を登っている。中には我先にと走ってる子供もいる。元気だなぁ。とてもじゃないけど私は走るのは無理。ゆっくりと坂道を登ることにした。ルースは私に合わせてペースを落としてくれる。 横顔をチラッと見るとルースは頂上にある教会を見つめていた。なんというか凛々しい。自分の気持ちに気がついてからやけにルースがキラキラしてカッコよく見える。単純だな、私。思わずフッと笑ってしまった。

「何、笑ってんだよ」

ルースが訝しげに聞いてくる。

「何でもないよ」

異世界で好きな人が出来るとは夢にも思わなかった。

人生は何が起こるかわからない。

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