青の追憶 44

周りの景色を楽しみ、すれ違う人々の楽しそうな表情を見ながら時間をかけてゆっくりと歩いた。

普段だったらどうってことのない距離なんだと思うけど、最近の私の体調からすると、なかなかハードな山登りだ。頂上に着いた時、疲れたーと感嘆の気持ちが混ざったため息が出た。

「近くで見るのは初めてだけど、すげぇな」

ルースが呟く。

「そうだね。こんな細かい彫刻がされているなんて全然分からなかった」

ヨタハの町でメインの教会というだけある。白い石造りの教会なんだけど、壁にびっしりと彫刻がしてあった。蔦、花、神話みたいな絵、幾何学模様……。それらの細かい彫刻が美しく教会を飾っていた。リヴィエの像らしきものもある。あっちの世界だったら、絶対この教会をバックに記念写真を撮ってるな。残念ながら写真はないので、目に焼き付けておく。私もルースも呆けたように教会を見つめ続けていた。

「そろそろ行くか」

「うん」

巡礼の人達に混ざって教会の中へと入ると、ザワザワとしているというか、ウキウキした雰囲気が伝わってきた。シーンとして厳かな感じだろうと思っていたので拍子抜けしてしまう。

「教会の中なのに結構賑やかだね」

「お守りが貰えるから気分が高揚してんじゃないのか?」

ルースの視線の先には、印をもらう為に並んでいる人の長い列があった。大勢の人の間から覗くように観察すると、列の先頭で神官の人が印を押している姿が見えた。それからお守りを受け取る人と受け取らない人とに分かれる。言うまでもなく、お守りをもらった人は印を5つ集めた人達だ。

「印をもらう訳じゃないけど、私達も並ぼうか。あの人がここの神官みたいだし」

「そうだな」

最後尾に並ぶと自分達の順番来るのを待った。

「次の方」

神官の傍に控えている人が声をかけてきたので、私達は神官の目の前まで進み出た。

優しい感じのおじいさんが

「こんにちは。インチョウを」

と、ニッコリ笑いながら話しかけてくる。

インチョウ?それってみんなが持っている小さい冊子の事?印を押す手帳だから印帳だろうか?どちらにしてもインチョウは持っていない。

「こ、こんにちは。あの、私達は印を貰いに来たのではなくてですね……」

と、言いながら例の手紙を見せた。その手紙を見ると神官はすぐに理解したようで「では」と後ろの人に目配せをする。

「お二人はこちらへ」

神官のお供と思われる人が左側のドアへと案内してくれた。私は歩きながら神官の方を振り返ると私達の後ろに並んでいた巡礼の人に印を押していた。この様子だと水晶の所に案内してもらうのは随分と先になりそう。そんな事を思いながら教会の外に出た。

外は眩しい陽射しが降り注いでいる。巡礼の人たちが話している声がかすかに聞こえるものの、周りに人の気配が全くない。なんで?とキョロキョロと辺りを見回した。

「何してんだよ?」

ルースが言う。

「あんなに人がいたのに、この辺りって全然人がいなくない?」

「教会の裏手は関係者以外立ち入り禁止なのですよ」

お供の人が答えてくれた。

あ、そうなんだ。教会周辺も散策できるものだと思ってた。

「こちらへどうぞ」

案内された先には教会より一回り小さい建物があった。白い石は教会と同じものだろう。こちらの建物は彫刻があまり施されていないけど、それでも要所要所には美しい細工がされている。

「こちらも教会ですか?」

「いえ、ここは私共の控え室です。セーファス様は普段こちらで仕事をされています」

セーファス様……ってさっきの神官の名前だよね。教会で印を押していない時は、こっちの建物で仕事をしているのか。

建物の中に入り一番奥の部屋の前で立ち止まる。重厚な木の扉には紋章が彫ってあった。

「フェイ様。お客様をお連れしました」

ノックをしながら、声をかけている。

「お客様ですか?」

静かに扉が開いたかと思うと物凄い美人が出てきた。

なんなのこの美人は!肩で切りそろえられた真っ直ぐな金髪。海を思わせるような紺碧の瞳。もちろん肌もキレイだ。ゆったりとした洋服を着ているから体のラインが全然分からないけど、きっとスタイルも良いに違いない。女性の中では背が高いほうに入るだろう。170センチくらいはあるかな?思ったより声が低いけれど、これはこれで素敵だ。会社とかにいたらクールビューティーのあだ名と共に、みんなから羨望の眼差しをうけるだろうな。隠れファンクラブとか出来てしまいそう。

「はい、例の……」

と、お供の人が言ったのが聞こえた。

私は慌てて手紙を取り出そうとして一度床に落としてしまい、「ヤバイ」といいながら手紙を拾い上げた。あまりにも美人にジーっと見られると、必要以上に緊張してしまう。

「あの、これを」

と手紙についたホコリを払いながら差し出す。なんか、ラブレターでも渡しているみたいになってしまった。

美人さんはその手紙にさっと目を通すと「中にお入りください」と道を開ける。

「では、私はこれで」

私達を案内してくれた人が下がろうとする。「ありがとうございました」と言うと、会釈を返してくれた。

「サラさん、ルースさん。お待ちしておりました。どうぞこちらへ」

と、ソファに案内してくれた。動きまで優雅で気品が漂いまくり。私もこういう女性になりたかった。

「私はフェイと申します。この教会の神官、セーファス様の側近です」

深々と頭を下げられた。

「あ、……サラと申します。は、初めまして」

美人と会話するのは緊張する。ルースを見ると呆れた目をしていた。ルースはこんな美人を目の前にして緊張しないのだろうか。

「すぐにセーファス様を探してきます。大変申し訳ないのですが、ここでお待ちいただけますか?」

「え?セーファスさんはそこの教会にいらっしゃいましたよ?」

いたよね、とルースに同意を求めると「あぁ」と頷いた。

「いえ、あの者は神官ですが、セーファス様ではありません」

「そうなんですか?」

「はい。セーファス様は少し放浪癖があるといいますか……」

フェイさんは小さくため息をつき、困った顔をした。美人はどんな表情をしてもサマになるなぁ。

「放浪癖?」

ルースが問う。

「申し訳ありません。すぐに探してまいります」

ルースの言葉にフェイさんはまた困った顔をして、足早に部屋を出て行ってしまった。

私とルースは部屋に取り残された。教会の方ではザワザワとしていたのに、ここの建物は教会から少し離れているせいかとても静かだ。

「それにしてもフェイさんって物凄く美人だよね。あのくらい美人だといろいろ大変だろうねぇ」

「何言ってんだ?」

「ルースもフェイさん見てビックリしたでしょ?めちゃくちゃキレイじゃん、あの人」

「おい、あのフェイって奴は男だぞ」

「はい?」

「見て分からないのか?声だって低かっただろ」

そ、そりゃ少し低いなぁとは思ったけど、ハスキーボイスの女性かと思った。

「本当に男の人?あんなに美人なのに?」

「中性的な整った顔立ちだったしな。にしても、女と思っていたのに、ボケーと見惚れていたのかよ。挙動不審だし」

「だって、あまりにも美人だったから。……男性であの色気は反則だよなぁ。私にも分けて欲しい」

思わず本音をこぼすと

「そうだな」

あっさり肯定された。

「ちょっと……」

自分に色気がないのは本当の事だけど、少しはお世辞ってものが言えないのだろうか。私が少しムッとしているのも気にせずにルースは話を続ける。

「教会にいた神官がセーファスって奴じゃないのは驚いたな。しかも放浪癖があるってどんな神官なんだ?」

神官を呼び捨てはあまりよくないんじゃ……。ジェラルドさんも呼び捨てにしていたから今更言うのも何だけど。

「放浪癖のある神官、かぁ。布教活動でもしてるのかな?」

「布教活動なんかしなくても、みんなリヴィエの信者だぞ」

「あ、そっか。じゃあ、やっぱり町にある教会に出張じゃない?その間は別の神官が変わりに印を押す仕事をする、みたいな」

「そう考えるのが妥当だな。でも、そういう場合って放浪癖ってあんまり言わなくないか?なんかすげー遊んでいそうな感じがするな」

「そうかなぁ。セーファスさんは高位の神官だし真面目に仕事してるんじゃない?」

「だといいけどな」

そんな会話をしながら私達はセーファスさんとフェイさんが帰ってくるのを待っていた。

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