青の追憶 46

水晶がある部屋へと続く入り口はセーファスさんの仕事部屋にあるらしい。

私はセーファスさんの後に続いて、その仕事部屋へと入る。まず、一番最初に目に飛び込んできたのが大きな机。壁際に本がビッシリと置いてある。その落ち着いた雰囲気に、セーファスさんよりフェイさんの方が似合う部屋だな、と思った。

「俺はあんまりこの部屋に居るのは好きじゃないけどな。ジッと座って仕事しているなんて耐えられねぇよ。町をいろいろ見て回ったほうが早い。自分の目で見たほうが分かりやすい事も多いしな」

一理ある。だけど、フェイさんが放浪癖というくらいだから、そうとう寄り道していそうな感じがする。

「で、ここが入り口だ」

セーファスさんが目で合図した先には、部屋のど真ん中に置いているどっしりとした重厚な机。

「机ですか?」

って引き出しの中じゃないよねぇ。あのマンガじゃあるまいし。

「この机、重いんだよ。……っと」

セーファスさんがぐっと机を押すと、机の下から隠し階段が現れた。

机で階段を隠していたのか。単純な隠し方なような気もするけど、この部屋にもなかなか入れないし、入ったらセーファスさんがドン!と机に座っていたら、とてもじゃなけどその机の傍に近寄りたいとは思わない。動かすのも大変そうだし、なかなか穴場(? )の入り口かもしれない。

「よし、いいぞ。降りるぞサラ」

「はい」

セーファスさんの後に続いて階段を降りる。ここは螺旋階段で水晶の部屋へ行くらしい。所々に蝋燭の火を灯す台も壁に彫ってあり、階段自体は狭いけれどかなり丁寧に作られている。

セーファスさんはゆっくり下りながら、所々にある蝋燭に火を灯している。さすがに灯りがないと階段は降りづらい。

「さっきはルースがいたからハッキリ聞けなかったけど、サラ、お前本当はどう思ってんだ?」

「え?」

セーファスさんが急に真面目な口調で聞いてきた。

「この旅の事だよ。いくらアルヴィナが危ないといっても、お前にはお前の人生があるだろう? なんでそんなアッサリ引き受けて真面目に旅してんだよ」

旅をしているのはそんなにおかしい事ではないよね? セーファスさんの言い方は、旅なんか止めちまえばいいのに、というように聞こえなくもないんだけど、気のせい?

「あのー、セーファスさんは私が違う世界から来たって事はご存知ですよね?」

「あぁ、知っている。手が6本とかあるすげー変な奴がきたらどうしよう? って思ったけど、俺達と同じ人間だったから拍子抜けだな」

異世界から来たって宇宙人と同じ扱いなのかも……。

「私、ハヴィスに来た時、ルースの家で暮らしながらもとの世界に帰る方法を自分なりに探していたんです。まぁ、ほとんどムダだったんですけど。で、そんな時にジェラルドさんとお会いして、各地にある水晶の所に行けば帰り方を教えてくれるって言ってくださったんです。私の血を注げば天災も少しは治まるみたいだし、早く旅が終わればそれだけ私も早くあっちに帰ることができます。だからこれがベストの方法だと……」

私が話している間、セーファスさんは黙ったまま階段を下りていた。

「……そういう事か」

急に立ち止まったので、私は背中にぶつかりそうになった。

「な、何か私変な事言いましたか?」

「いや、何でもねぇよ。後で……そうだなルースも居たほうがいいな。その時に話してやる。まずはここの水晶だな」

そう言った視線の先には小さな扉があった。

小さな扉といっても、リヴィエの彫刻がしてあって荘厳さを醸し出していた。

セーファスさんは小さな鍵を取り出してカチッと回す。

扉を押し開けるとそこは正方形の小部屋だった。一番最初に行ったハヴィス城の水晶の所と似ている。

「ホラよ。短剣だ」

セーファスさんから短剣を受け取る。柄の部分の細かく美しい彫刻はここでも健在だ。お土産に持って帰ったらもの凄く喜ばれそうだなーとか関係ないことを思う。

「左手が傷だらけじゃねぇか」

ぼんやりと短剣を見ていたら、いつのまにセーファスさんに左手を握られていた。

わ、なんて早業なんだ!と慌てて引っ込めようとした。

「なに警戒してんだよ。何もしねーよ。こんな所で」

あ、そうですか……。すみません勘違いして、と気まずくて目を逸らした。その間もセーファスさんは私の手の傷をなぞっている。う、けっこうくすぐったい。

「あーあ、キレイな手なのになぁ。傷だらけでもったいねぇ。指輪しないのか? 似合いそうだ。……あ、俺が指輪をやろ……」

「いらないです」

「断るの早ぇよ。装飾品嫌いなのか? でもペンダントしてるじゃねぇか」

「……これは特別です」

「ふーん。それはルースから貰ったのか?」

「はい」

「本物の宝石だとしてもいらないのか? それはガラスだろ?」

「宝石は興味ありますけど、私はこのペンダントだけあれば十分です」

「はいはい、サラの気持ちは分かったよ」

「余計な事しゃべってすみません。すぐ始めますね」

「別に余計な事じゃねぇけどな。まぁいいや。サラのタイミングで始めてくれ」

「はい」

ここでは薬指から血を注ぐ。

目の前には清浄な空気を纏った水晶。

形はいびつでも、石そのものは本当に美しい。

軽く深呼吸をしてから、左手の薬指に傷をつけた。血が滲み出すのを確認してから水晶に触れる。

「うっ……」

小さい声が漏れてしまった。眉間に皺が寄っているのが自分でもわかる。

最初から……辛い。倒れてしまいそうになるのをグッとこらえてひとすら時間が過ぎるのを待つ。 これでまた災害は少し減るのだろうか。今の所、ルースが災害地域を避けたルートを選ぶからそんなに酷い状況を見ていない。水晶がある地域はリヴィエの力が他の所よりも若干強いのか、災害は起きていない。ハヴィスもキセもクラカイもヨタハも全部平和だった。でも、アルヴィナは広い。噂で何度も話を聞くくらいなのだから、現状はかなり厳しい事になっているのだと思う。

天災だから仕方ない。日本にいた私ならそう思っている。だけど、リヴィエの力を戻すことで天災が治まるのなら起こらない方がいいに決まっている。みんな、みんな、毎日を楽しく安心して暮らしたいだけなんだから。

ルースもセイディさんもウィリーも、アレシア、キャロル、カリーナさん……、私が好きな人達にはやっぱり笑顔で楽しく暮らして欲しい。

そんな事をグルグルと考えていた。

「もういいんじゃねぇか? 終わったみたいだぞ」

その声でハッと気がついた。力を奪われる感覚がなくなっている。セーファスさんの言う通り終わったんだ。

……今回はもう無理。

足の力が抜け、倒れそうになった私を支えてくれたのはセーファスさんだった。

「す……みません」

「ルースに殴られそうだなー」

こんな時も冗談を言えるのか、この人。私はフフッと笑った。

「ルース……に、怒……らない……でって、言い……ま……すね……」

「おい、それはこの数分後に言ってもらいたいんだが。って無理か」

セーファスさんが何か言っていたけど、全然聞き取れなかった。

私の意識は深く深く闇の中へと落ちていった。

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