青の追憶 47

どこか遠くから声が聞こえた。

目覚めそうになったけど、まだ目を開けるのが辛い。

そういう眠りを何度か繰り返した後、ようやく目を覚ましたのだけれど、最初に聞こえてきたのは夢の中でも聞こえてきた声だった。

「だから、何度も来なくていいって言ってんだろ。神官の仕事で忙しいんじゃないのか?」

「見舞いも仕事の一環だ。……ったくそんなにガードする事ねーだろうが。ちょっと様子見たら帰るよ」

「昨日も来たから十分だろ」

「毎日来て何が悪い。ずっと眠ったままなんだろ? 神官の俺が傍にいた方が何かと役に立つ……」

「立たねーよ。それどころか逆に危ないんだよ」

「お前、神官の俺に向かってよくそんな口が利けるな。なぁ、フェイ、俺はサラの事が心配でただ見舞いに来ているだけなのにな」

「……セーファス様。眠っている女性に対して、勝手にあのような事をなさればルースさんが警戒するのも無理ありません。ほんの一瞬、目を離しただけで、よくもまぁあんな素早く」

「だーかーら、体調を心配しているからこその行動だろう? アレくらいは仕方ないだろう。どいつもこいつも頭かてーんだよ」

「多少? あれが?」

「普通なら殴られても文句を言えない状況でしたよ」

ルースとセーファスさんとフェイさんの声だ。

宿の廊下で話しているらしいけど、会話がまる聞こえだ。窓から入ってくる光の感じからすると、今は昼間みたいだし、声をひそめる必要もないか。

私は体を起し、近くに置いてあった水差しからコップに水を注いで少しだけ飲んだ。 今回も3日は眠っているだろう。体調は……良いとは言えない。たくさん眠っているのにも関わらず、完璧に回復しているとは言い難い。自分の体の事だ。自分が一番分かる。

とりあえず起きてドアの方へヨロヨロと歩いた。いくら昼間とはいえ、ずーっとあの調子で話されちゃ宿の人にも迷惑じゃないだろうか? 相変わらず騒がしい勢いで話し続けている。

「……ルース」

ドアを少し開けると、ルースはすぐに振り向いた。

「サラ! 悪い、うるさくて起こしたか?」

……それもあるかもしれない。けど、たぶん静かにしていても自然に起きていた時期なのかも。

「とりあえず、中に入ってもらったら?」

セーファスさんとはいえ、偉い神官だし。フェイさんは丁寧で礼儀正しい人だし、廊下で立ち話というのも……。

「おー、サラ! 目が覚めたか。どうだ調子は?」

「サラさん、騒がしくして申し訳ございません」

二人が口々の声をかけてきた。

「あ、なんとか」

寝起き姿を見せるのは少し恥ずかしい。髪の毛くらい梳かしてから顔を出せばよかった。

慌てて髪を撫で付けていると

「さら、とにかくベッドに戻ってろ。まだ、起き上がらないほうがいいんじゃないか?」

ルースが言う。

「ホントにお前は保護者みたいだな」

せーファスさんがからかった。確かにルースは心配性かもしれない。でも、今はルースの言葉に従おう。……動くのがダルイ。

「えーと、あれから何日経ってるの?」

とりあえず部屋に戻った私はルースに尋ねる。

「……今日で4日目だ」

4日目か。やっぱり目覚めるまでの時間がどんどん長くなっている。……それでも完全に回復していないのに。ふと、セーファスさんと見ると意外にもものすごく真面目に考え込んでいる様子だった。

フェイさんは「大丈夫ですか?」と声をかけてくれる。

「あの、セーファスさん達は毎日来てくださったんですか? ありがとうございます」

私が話しかけるとセーファスさんはパッと表情を変えた。

「あ? あぁ。まぁ、一応神官として当たり前の行動だな」

「あれのどこが当たり前の行動なんだよ」

ルースが即座に反論した。

「何かあったんですか?」

思わず口に出して聞くと、男性3人は顔を見合わせる。

「あー、あれは……」

とルース。

「本当に申し訳ありません。セーファス様には何度も注意を申し上げたのですが」

とフェイさん。

? ? ? 

何があったのか全く分からない。

「心臓の音を聞いただけだ。死んだように眠っていたから気になったんだよ」

セーファスさんはアッサリ答えた。

「心臓? 私のですか?」

「あぁ。そしたらこいつは怒るし、フェイは軽蔑の眼差しで見てくるし散々だったな。別にたいした事してないのになぁ」

なんでそんなに俺が責められなきゃいけないのだ、という表情でセーファスさんが言う。

「あのなぁ、あんたが医者とかだったら俺も何も言わねぇよ。でも、あの時はただサラに触りたかっただけなんじゃないのか? 心臓の音を聞いていただけだーとか言ってるけど、あの時サラを見ながら痩せすぎだ、とかもうちょっとふっくらしていた方が、とか余計な事を……」

「だって、現に細いだろう」

「サラは小柄だからこれくらいが普通だろ」

「ふーん。さすがだねぇ」

「はぁ?」

「毎日イチャついているだけあんな。サラの体型も良く知ってるってとこか」

「変な言い方すんな!」

……セーファスさんはどんな時でもこういう感じなんだろか。

「セーファス様、いい加減そのような発言はお止めください」

「おー、そうだった。あのな、こいつらが余計な事言う前に先に言っておくけど、別に変な事はしてねぇぞ。ただ、お前の胸にちょっと触れただけだ。なのにこいつらがギャーギャー言うからややこしいことに」

「ちょっとじゃねぇだろう!」

ダメだ。話が堂々巡りというか進まない。

「ルース、もういいよ。寝ていたときの事だから覚えてないし」

「こいつには少しぐらいキツメに言わないと分かんねぇだよ」

「怖ぇなぁ、ルースは。神官の俺に向かってここまで言う奴はなかなかいねぇぞ」

ケラケラとセーファスさんが笑う。

なんかセーファスさんにはいろいろ言ってもあまり意味ないんじゃ……。なんというか思いっきり我が道を行くってタイプの人だし。部下が思いっきり苦労しそうだけど、それでもきちんと神官の仕事はこなしているのかな。じゃないとフェイさんかずっと従っているとは思えない。

「とにかく、サラさんが目覚めて良かったです。あの日から一度も目を覚まさないと聞いていたので、とても心配だったのですが一安心ですね。……体調はいかがですか? 貧血などは? 栄養のある果物を持参したので、後ほどルースさんと召し上がってください」

「あ、ありがとうございます。気を使わせて申し訳ないです」

果物を受け取りながらお礼を言う。

「いいのですよ、このくらい。はやく元気になってください。」

「は、はい」

なんかかなり心配させてしまったみたいけど、寝ている時でも調子悪そうに見えたのかな。さっきも死んだように眠っていたとか言われたし。

「サラの姿も見たし見舞いの品の渡したし。フェイ、帰るか」

「そうですね。長居してもご迷惑ですから」

二人はサッと立ち上がる。

「あ……」

私が立ち上がろうとすると、

「あー、いいよ。そのままで。それよりも……」

セーファスさんが私とルースを交互に見た。

「サラ、ルース。この町を出発する前に一度教会に寄れ」

「なんか用事があるのか?」

ルースが尋ねる。

「あぁ。とにかく必ず寄れ。じゃあな」

それだけ言うと帰っていった。

「用事? 何だ……?」

ルースがどことなく呟く。

セーファスさん達が出ていったドアを見つめながら私もルースと同じ事を思った。

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