青の追憶 5

「ねぇ、サラ。昨日の事、ルースとウィリーから話を聞いたんだけど……」

セイディさんが少し話しにくそうに言った。

「あなた、最初はルースとウィリーの会話が全く分からなかったみたいね。話している言葉もまったく聞いたことない言語だったとルースは言っていたわ。それに、あなたの着ていた服、ここ辺りでは見かけないものよ」

セイディさんとルースさんの視線が少しだけ痛い。特にルースさん、目つきがちょっと怖いです。

「最初にサラとルース達が出合った場所はね、人が頻繁に通る所ではないの。若い女性が一人でいるような所ではないわ。この辺りの人ならみんな知っている事よ。たまにだけどギルタ……昨日、ウィリーが襲われた犬みたいな獣が出るから」

だから全然人がいなかったのか。ハイキングコースなんかある訳ないよなぁ。と、妙に納得してしまった。

「サラ、あなたあの山を越えてきたの? 山の向こう側の国境沿いに小さな村があると聞いたことがあるけれど、そこから来たのかしら?」

私は迷った。本当の事を言うかどうかだ。いきなり知らない山にいました。なんて言っても信じてもらえないだろうし……。

私は少し考えた後、一つだけ確認してみることにした。

「あの、お話する前に一つお願いがあるんですけど」

「何かしら?」

「地図ってありますか? ここの街とか国とかが載っている。そんなに詳しくなくていいので」

「地図? そうね……、ルースなら持っているでしょ?」

「あぁ、あるけど」

「見せていただけないでしょうか?」

私はルースさんを見ながら言った。少しだけ考えるような仕草をした後、ルースさんは2階へと上がっていった。

戻ってきたルースさんの手には紙があった。テーブルの上にそれを広げる。

「これがこの国の大まかな地図だ。小さい村とかは載っていないが……」

私は覗き込んだ。

あぁ、やっぱり知らない国だ。ハワイの島でもない。もちろん日本でもない。見た事のない地図だった。

「この国は他の国と交流はないのですか?」

私の質問にルースさんが答えてくれた。

「この国はほとんど山に囲まれている。だから他の国と貿易などをするには山を越えなくてはいけなくて、とても大変なんだ。だから、あまり交流は盛んではない。たまに商人が来るらしいけど」

「……そうですか」

もしかしたら他の国なら私が知っている国があるかも、と思ったんだけど。

私は本当の事を言うことにした。国境沿いの村の出身です、と答えた所ですぐに嘘はバレると思ったから。同じ国の人なら普通は会話は出来るはず。でも、私は最初会話もろくに出来なかった、というのはバレている。(そういやいきなり話せるようになったけれどなんでだろう?)

他の国出身なら言葉が分かりません、というのもアリだけど、国交がほとんどない上に、たまに来る人は商人だけと聞いてしまったらその嘘も言えない。商人なのに私は品物を持っていないことになる。それはどう考えても変だ。

「あの、信じてもらえないかもしれないのですが……」

私は覚悟を決めて話始めた。

私はこの国の人ではないという事。ある日、山登り(ハイキングという言葉は通じるかどうか分からなかったから単純に山登りとした)をしていたら地震が起こった事。地震の後にはもうすでにこの国にいたという事。自分でもなんでここにいるのか、さっぱり分からない。と正直に伝えた。

セイディさんとルースさんは信じられないというような目で見ていたけど、なんとか理解してくれた。

「だからアンタの格好は変だったのか」

と、ルースさん。

変とは失礼な……。

そんなルースさんを無視してセイディさんが言った。

「そういえば、昨日の夕方少し大きい地震があったわね。サラがこの国に来てしまったのはそれが原因かしら」

「わかりません……」

「そうよね、分からなくて当然よね。ごめんなさい。サラが一番不安なのに」

「いえ、いいんです。こうして一晩泊めていただいただけでもすごく感謝しています。もし、あのまま山に一人ぼっちだったらここまで冷静になれなかったと思うし」

私は心の底からそう思った。一晩グッスリ眠ったら、気分がやけに据わっていた。

「サラは大人ね」

と、セイディさんは笑いながら言った。

「えぇ、大人です。嫌になるくらい現実的です」

私も苦笑しながら答えた。

「で、この後はどうするんだ? 自分の国に戻る方法でも探すのか?」

ルースさんが言った。

「……出来ればそうしたいです。ただ、この国の事とかよく分からないし、戻る方法を探すのも時間がかかると思うんです」

「まぁ、それはそうだろうな」

「だから……」

私は椅子から立ち上がって二人に頭を下げた。

「お願いします、私に仕事を紹介してください! 」

「「えぇ!?」」

二人の言葉が重なる。

「戻る方法を探すには時間がかかります。その間、私は生きていかなきゃいけないんです。生きるためには、その……やっぱりお金が必要だと思うんです。この国はタダで食べ物をくれる訳ではないでしょう?」

「ま、まぁそうね」

とセイディさん。

「だからお願いします。何か私でもできそうな仕事を紹介していただけませんか?」

「で、でも……」

セイディさんは困った表情をした。

「もしかして、この街には仕事があまりなかったりしますか? 身元不明の人は雇わない、とか」

私は不安になった。もし、そうだったら絶望的だ。

「そんなことはないわ。仕事もあるし」

「ならお願いします。出来るだけみなさんには迷惑かけないようにしますので」

私は必死に頭を下げた。

セイディさんがふーっとため息をつく。

やっぱりダメなのだろうか? もしかして警察(ってあるのか?)に行きなさい、とか言われたりするかも。

「分かったわ、サラ。仕事を紹介します。あなたを雇ってくれそうな所があるの」

「本当ですか!? ありがとうございます、セイディさん!!」

良かった。

「おい、本当に大丈夫なのか? あんた、仕事あんまりしたことなさそうだけど」

ルースさんは疑いの目で見てきた。

「大丈夫です。私、結構いろんな仕事していました」

私は自信たっぷりに言った。これは嘘ではない。大学時代はアルバイトをたくさんした。そのあとは会社員として働いていたし。

「サラは働き者なのね。そんなに若いのに偉いわ。ルースも見習いなさい」

「俺だって働いているよ! この間、仕事が戻ってきたばかりじゃないか」

「そうだったかしら?」

セイディさんは惚けて言う。

「ルースさんは何のお仕事を?」

私は聞いてみた。

「簡単に言うと護衛だな。街から街に荷物を運ぶとき、獣とか盗賊から商人や荷物を守るのか仕事だ」

「獣……とか盗賊がいるんですか?」

「まぁ、いるな。アンタの国にもいただろう?」

「そ、そうですね、いました」

獣はまぁ、山にいる熊とか猪か。盗賊はドロボウの事よね。ルースさんの仕事は日本でいう警備みたいなものだろう。

「ルースは運動神経だけは良かったからね。あと、剣の練習とかも好きだったから。唯一の特技を仕事に生かせて良かったわね」

「なんでそういちいち嫌味っぽいんだ」

なるほど、だから昨日は腰に剣を下げていたのか。

「サラくらいの年から、護衛の仕事を始めて、もう4、5年になるかしら。悪運が強いせいか、まだ大怪我はないわね」

「なんだその言い方は。まるで怪我しろって言っているように聞こえるじゃねーか」

「私はただ怪我がなくてよかったわ、と言っているんじゃない」

「そう聞こえねぇよ」

「ルースさんって30歳くらいなんですか? もっと若く見えますけど」

私はふと気になって言った。

「え?」

セイディさんが私を見た。

「ルースは23よ」

「23? え、でもさっき私くらいの年から護衛の仕事を始めたって」

「サラ、あなた18くらいじゃないの?」

「いえ、私は25ですよ」

「「25?」」

二人の声がまた重なった。

「本当に25なの?」

と、セイディさん。

「あんた俺より年上なの? 嘘ついてんじゃないの?」

と、ルースさん。

「嘘じゃありません」

私だって女だ。若く見られるのは嬉しい。けど、ここまで言われるとちょっと複雑かも。要するにガキっぽいって事よね。

「あの、サラ。あなたの国の人はみんなそうなの?」

セイディさんが聞いてきた。

「えーと、何がですか?」

「その、なんていうか年をとらないのかしら?」

「まさか! みんな年はとります。ただ、そうですね……、私の国の人は外見が実年齢より若く見られることは多いみたいですが」

「そ、そうなの。ビックリしたわ。まさかルースより上とは思わなくて」

「その見た目で25かよ、ありえねー。普通25っつったらもっとこう色気漂うだろうが。あんた小さいし、全然そう見えないな。いろんな人種がいるんだなぁ。世界は広い」

思いっきりバカにされているよね、これ。色気ないって……。小さいってのは身長か? それとも胸の事を言っているのか?

「ごめんなさい。ルースって本当にバカで。サラは可愛らしいって事が言いたいだけなのよ。ね、こんなバカは放っておいて、サラに紹介するお仕事の話をしましょう」

セイディさんは慌てて私に謝り、最後に一言こう言った。

「バカ男はさっさと裏庭に行って剣の練習でもしたら?」

「バカって連呼するな」

「うるさいわね。私はこれからサラと大事な話があるの。何も言わず、黙って裏庭に行きなさい」

「はいはい、分かりました」

ルースさんはパンをかじりながら、私をチラッと見て

「やっぱり年上には見えねぇ」

と言いながら去っていった。

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