青の追憶 53

「…………そういう訳だから、最後の町に行ってやるべきことはやる。だけど、生贄にはならない」

ルースがセーファスさんに向かってきっぱりと言った。

「そうか。まぁ、それでもいいかもな」

拍子抜けだった。だって、神官ならアルヴィナのために生贄になれって言うんじゃ?

「あ? なんだよ、二人して俺の事ジロジロ見て」

「え、あの、その……。私が言うのもなんですが、そんなアッサリと認めちゃっていいんですか? アルヴィナが大変な事になるんじゃ?」

「何言ってんだよ。もう大変な事になってるんだって。それになー、国っていうか世界ってのはいつか滅びるものなんだ。国が滅びて、そしてまたいつの日が始まる。それの繰り返しだ。たまたま俺が生きていた時代がちょうど終わりだったって事だな」

「他の人達は……?」

「そうだなぁ、運が悪かったと思ってもらうしかないんじゃねーの? だいたい、人はいつか死ぬんだ。今日元気でも明日はどうなってるか分からないだろ? だから、アルヴィナが終わるときは、みんな終わりでいいんじゃねーの」

「やけに達観してんな」

ルースも驚いたように言った。

確かに……。私が言えたセリフじゃないけど、もっと国の事を思っているのかと思った。

「俺はな、無理矢理人間の命を捧げてまで、国を救おうなんてそんな考えはないんだよ。リヴィエの力が本当に尽きるのなら、それで終わりでもいいんじゃないかと思っている。それがこの国の運命だ。ま、どっちにしろその時が来ないと本当に終わるかどうかなんて分からないし結構冷静な目で見てる。ただ、ジェラルド達はそうもいかないんだろうな。だからサラを強引にこっちに連れてきた」

沈黙が流れる。

「……サラ、ルースの言うとおり、お前をこっちの事情に強引に巻き込んでしまったのは俺達だ。今更だけど、本当にすまなかった。お前にはお前の人生があるだろ。だから、好きなようにすればいい。生きたいと思うならそうすればいい。ジェラルドが何か言ってきたら……。そうだな、俺がお前ら二人くらいなら匿ってやるよ。まぁ、ジェラルドもそんなバカじゃねぇから、そんな事はしないと思う。あいつは仕事人間だが、感情だってあるはずだ。ま、俺と会うときはいっもつ澄ました顔しているから何考えてんだか分からないこともあるけど」

セーファスさんもいろいろと考えているようだ。で、でも本当にそんなアッサリと言っちゃっていいのかな……。

私がウダウダとそんな事を考えていたら、

「ホラよ。これ、受け取れ」

と、小さな包みを机の上に置いた。私がその包みを持ち上げるとズシッとした重みを感じた。

「そろそろ旅の資金がヤバイだろ?」

「え? まぁ減ってはいますが……」

と、戸惑いながらルースを見た。ルースは、小さな包みの中身を確認してからセーファスさんに言う。

「やけに多くないか?」

「そうか? まぁ、いいから受け取っておけよ」

「でも……」

さすがにこんなには必要ない、と思う。

「これでも少ない方だと思うぞ」

そう言われても……。

「いいから受け取っておけ。使わない、と思ったら近くの教会にこっそり寄付でもすればいいだろ。使い方はお前らにまかせる」

セーファスさんに押し切られてしまった。

「分かった」

ルースがそう答えたので、私はそれに従うことにする。教会に寄付していいのなら、こっちの気持ちも少しだけ楽になる。

「じゃ、俺の話はここまでだ」

「あ、はい……」

正直、なんと言っていいのか分からない。セーファスさんは好きにしろって言ってくれたけど、本当にこのままでいいのかな……。

「サラ」

「はい」

「本当に悪いことをしたと思っている。神官の俺が言うのも何だが、アルヴィナの事はもう気にするな。自分の事を考えろ」

「セーファスさん」

「悪いが、あと一つだけ水晶に力を分けてやってくれ」

そう言いながら立ち上がり、私に手を差し出してきた。握手か。私はその手を握り返しながら言う。

「いろいろ教えてくださってありがとうございました。その……、何も知らないままよりは良かった、と思います」

「そうか」

「はい。最後の水晶の所まで頑張って旅してきますね」

「そうか。……んじゃ最後に」

その言葉と共に、体がグッと引っ張られる。わわっ! とよろめいた次の瞬間には、セーファスさんの腕の中にいた。

「やっぱりちょっと細いなぁ。でも、悪くはない」

からかうような声が頭上から聞こえる。

「おいっ! 最後の最後で何してんだよ」

ルースの声。

「相変わらずだなぁ。いいだろ、これくらい」

「よくねぇよ! 真面目に話してると思ったらすぐこれだ」

「ルースはいっつもしてるんだからいいだろ。たまには俺にもこうさせろ」

そんな事を言いながら、私の身体を撫でまわす。ちょ、ちょっと待て! 

「だから! なんでそんな変な言い方するんだよ。あと、その変な手の動きをやめろ!!」

「別に変な動きじゃねーよ。サラの身体に骨折箇所がないかだな、こうやって確認を……」

「普通に歩いてんだから、骨折なんかしてる訳ないだろ! 見て分かるだろうが」

「んじゃ、捻挫」

「どっちでも一緒だ!!」

こんな会話が繰り返されて、神妙な雰囲気はどこかに吹き飛んでしまった。

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