青の追憶 57

オシュイの教会は入り口の門から教会までの距離が長く、一番奥にある教会を中心に扇形に水路が広がっていた。 どうやら教会内の敷地は公園にもなっているらしく、ベンチが所々に置いてありたくさんの人が座って休憩していた。子供達が走り回っている姿も見られる。水路の水が陽の光を反射してキラキラと輝いていてとても眩しかった。

そんな中を教会の方へ向かって歩いて行くと、ルースが「え……?」と驚きの混じった声を上げた。

私は周りの景色を見ていたので、ルースが何を見て驚いたのかはわからない。

「アイツ……」

「アイツ? 教会の前に立っている人の事?」

ルースの視線の先を追うと、教会の前に誰かが立っているのが見えた。

私は目がそんなに良いわけではないから、顔が見えなかったけど、雰囲気からして男性でここの神官であろうという事は分かる。ルースの知り合い? と思いつつ目を凝らして見つめる。

「あ、あの人……」

「顔、見えたか?」

「うん。すごく似ているけど同じ人じゃないよね?」

「あぁ、違うみたいだ。あいつ、兄弟いたのか」

教会の入り口で街の人々とにこやかに挨拶を交わしている男性。

私達に気がつき深く一礼をしたその人は、ハヴィスにいるジェラルドさんによく似ていた。

♣ ♣ ♣

「サラさんとルースさんですね? お待ちしておりました。私は神官のレヴィンと申します」

レヴィンと名乗った男性が再度頭を下げる。私達も挨拶をしながら

「あの、ハヴィスのジェラルドさんと……」

と気になっている事を真っ先に尋ねた。

「はい。ジェラルドは私の兄です」

やっぱり兄弟なんだ。顔立ちも雰囲気も似ている。レヴィンさんは私達の顔を交互に見ると静かに話し始めた。

「お二人の事は兄と各地の神官から聞いております。この街に来るまでいろいろと大変な事も多かったでしょう? ここまで旅を続けてくださった事に感謝いたします」

「え? あ、はい……」

「では、こちらへどうぞ」

そう言うと教会内へと案内してくれた。

神官専用の部屋で勧められるままに椅子に座る。

「神官を代表してお礼を申し上げます。本当にありがとうございました」

「あ、いえ、どういたしまして」

改めてお礼を言われると戸惑ってしまう。ヨタハで会った神官のセーファスさんとは正反対のタイプだ。いや、セーファスさんが珍しい性格の持ち主なのか。

「あなた方が誠意を持って旅をしていることは神官を通して把握しておりました。リヴィエの力が戻ってきている事も」

「あの、その事なんですが……」

と私が話そうとした時

「サラは最後の水晶に血は注いでも生贄にはならない」

ルースが話を遮った。

「はい。承知しております」

「え……?」

まさか知っているとは思わなかった。でも、知っているのにそれについて特に怒るわけでもなく淡々と返事をしたことにもっと驚いた。

「セーファスから報告を受けております」

「でも、ジェラルドさんや他の神官の人達は何と?」

レヴィンさんは一呼吸置いた後で話してくれた。

「兄はあなた方が決めたことなら反対はしないと言っておりました。神官達もほぼ同じ意見です」

「他の神官達はともかくジェラルドも? あいつ、そんな簡単に分かってくれるタイプには見えないけどな」

ルースが驚いたように呟く。

「私もそう思っていました。兄はこの国を代表する神官という立場もあり、まず考える事はこの国の未来のことでした。ですが……、ハッキリと言いませんが何か思う所はあったようです」

「サラに嘘をついてまで生贄にしようとしたのにそんな簡単に考えを変えるものなのか? 信じられないな」

ルースの口調は疑いを隠さない。

「そうですね……。申し上げにくいのですが、当初、兄からはサラさん達が到着したら強引にでも儀式を行うように、と言われておりました」

私は一瞬身体を強張らせた。

「ですが、最近になってから、もしサラさん達が本当の事を知って生贄を拒否したとしても受け入れること、と連絡がありまして」

「何だよそれ。俺達が本当の事を知らないままだったら結局は生贄にするつもりだったのかよ」

「そうなのかもしれません。……でもあなた方は知ってしまった。兄の事ですから、セーファスが何か話すだろうと予想していたのかもしれませんが、本当の事は結局分かりません」

弟のレヴィンさんにも話していないのなら、ジェラルドさんの本当の考えを知るのは難しいかもしれない。

「ジェラルドは一体何を考えてるんだか。ハヴィスに戻ったら殴った上でいろいろと問いただしてやりたいな」

ルース……。相変わらず偉い人にも容赦がない。兄弟のレヴィンさんを目の前にしてあなたのお兄さんを殴りたいですって普通言わない。

そっとレヴィンさんの表情を伺うと、案の定複雑な表情をしていた。まぁ、そういう顔になっちゃうよねと思いながら私はもう一つ気になっている事を尋ねた。

「あの、全ての水晶に血を注げばしばらくはアルヴィナの災害は治まるって聞いたんですけど、力の強い神官の人達でも、どれくらい大丈夫なのかとかハッキリとした期間は分からないのですか?」

「それは分かりかねます。水晶の力が戻っているのは感覚的に分かるのですが、何年間は絶対大丈夫と数値化するのは非常に難しいので……」

「そうですか」

やっぱりそんな簡単には分からないか。

「サラ、前にも言ったけどお前はやるべき事はちゃんとやったんだから、それ以上の事は考えなくていい」

「……うん」

いつの間にか祈るようにギュッと握り締めていた両手を見つめ、私は小さく頷いた。

「では、そろそろ行きましょうか」

レヴィンさんが静かに促す。

私は軽く頷きながら立ち上がった。

「じゃあ、行ってくるね」

「あぁ、ここで待ってる」

ルースも立ち上がり、私の頭の上にポンと手を置いた。まるで子供の頭を撫でる父親だ。

「今回もいつものように眠っちゃうからまたヨロシク」

「そのセリフ聞き飽きた。でも、それもこれで最後だな」

ルースはいつもの困った表情を浮かべながら軽く笑った。

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