青の追憶 58

レヴィンさんは教会を出た後、裏庭を横切り林の中へと入っていった。教会の入り口からは分からなかったけど、奥にはちょっとした林が広がっていたらしい。もちろん関係者以外立ち入り禁止の場所だから今は私達以外歩いている人は誰も見当たらない。私はレヴィンさんの少し後ろを歩きながら、いつ話しを切り出そうかタイミングを計っていた。

「サラさん、こちらです」

考え事をしながら歩いていたせいか、いつの間にか目的地の入り口に着いていた。

「ここ、洞窟ですか?」

「はい」

「大丈夫なんでしょうか?」

「何かお困りの事が?」

「あの、今まで水晶がある部屋の存在は極秘事項だったし、その場所に行くのも隠し扉とかいろいろな仕掛けがあったので。ここは立ち入り禁止区域だとしても、入り口に鍵とかないし誰かが入ってきたりしないのかな、と……」

「洞窟の入り口は隠していませんが、水晶がある部屋に入る前に頑丈な扉がありますので。それに万が一誰かに入られたとしても、盗めるようなものは何ひとつないので大丈夫です」

「え? でも水晶ってとても高価なんじゃないですか?」

「価値はすごいですが、値段がつけられないので高価かどうかは何とも言えませんね」

レヴィンさんは少し考えながら答えた。

価値がすごいならとても高値で売れると思うんだけど違うのだろうか。

「部屋に入ってみれば分かりますよ。盗ろうとする気が無くなってしまうことが」

そう言いながら洞窟の中へと足を踏み入れた。

洞窟の中は真っ暗かと思いきや、一定間隔で蝋燭の灯があるため、思いのほか明るかった。オレンジ色の光が揺らめく道をゆっくりと進む。やがて一枚岩と思われる大きな扉の前にたどり着いた。

「少々お待ちください」

レヴィンさんが扉の右端でなにやら動かしている。思いきり隠しながら訳ではないけれど、レヴィンさんの身体に遮られてあまりよく見えない。この扉を開けるために、チェスの駒のような物を石版の上で複雑に動かしているのは分かる。だけど、駒の動きが複雑すぎてチラッと見ただけでは絶対に覚えられない。確かにこれじゃあ簡単に入るのは無理そうだ。

「お待たせいたしました」

レヴィンさんの声と同時に目の前の岩が重そうな音を響かせながら左右に開き始めた。思わず一歩後ずさりをしてしまう。

「どうぞ、こちらです」

優雅な仕草に導かれるように、私は水晶の部屋の中へと入った。

「すごい……」

部屋全体に散りばめられた水晶を見ながら呆然と呟く。

「美しいでしょう?」

「はい。満天の星空みたい……」

「灯りを弱くするともっと綺麗に見えますよ」

「このたくさんある水晶もリヴィエの力と関係があるのですか?」

「いえ、リヴィエに関係あるのは中央のあの水晶だけです」

レヴィンさんの視線をたどると、部屋の中央には清浄な空気を閉じ込めてしまったかのような美しい水晶が鎮座していた。

「見てお分かりのように、半分以上が固い岩に埋まった状態です。見えているのは一部分という事になりますね」

「こんなに大きいのに一部しかみえていないのですか?」

「はい。ですからこの水晶を盗ろうとしたら相当大変です。数時間で出来る作業ではないですよ。教会の人間も数時間おきにここの見回りに来ますからね。だから盗ろうとする人などいない、という訳です。ここの存在を知っている者も一部いますが、自分の国の力を脅かすような事をする愚かな者はいません」

「そうなんですか」

確かにこれなら盗られることはなさそう。それになんというか、これは盗って売り飛ばしたりしたら何かヤバイ事が起きそう……という雰囲気がある。直感的にそれを感じる。

私は再度目の前の水晶を見つめた。

「これが最後の水晶なんですね」

「はい、そうです」

これが……最後。

今しかない。この時を逃したら、レヴィンさんと二人きりになることはもうない。

ずっと悩んで迷って何度も同じ事を考えて、それでも結局一つしか答えは浮かばなかった。それをするために、私はここにいるのだ。

「サラさん、どうかされましたか?」

レヴィンさんが私を見ていた。

「あの、水晶に血を注ぐ前にお願いがあるのですが」

「はい、なんでしょう?」

私は大きく深呼吸をして、レヴィンさんの瞳をしっかりと見ながら話を始めた。

大切な人々の顔を思い浮かべながら……。

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