青の追憶 61

いろいろな事があった旅だった。

楽しかった事、辛かった事、嬉しかった事、泣きそうになった事……。多くの人に出会い、多くの事が起こった。それを全て覚えている。あと、もう少しだ。

「すみません。私は202号室に泊まっているサラっていいます。あの、私宛てに何か荷物が届いていませんか?」

夜の十時過ぎ、宿の中が落ち着いてくる時間帯に私は女将さんに声をかけた。

「あ!アレね。数日前だったかしら? 必ずあなたに直接渡してください、と言われて預かったものがあったわ」

女将さんはそう言うと、奥の部屋に戻り小さな包みを持ってきた。

「あなたから声をかけられるまでは渡さなくていいと言われていたとはいえ、お渡しするのが遅くなってごめんなさい」

「いえ、いいんです。私が受け取りに来るのが遅かったから。あの、預かってくださってありがとうございます」

「お客様のお荷物を大切に預かるのも私達の仕事ですから、気になさらないでね」

「ありがとうございます。それと、グラスを二つ借りてもよろしいですか?」

「何か飲み物を用意しましょうか?」

「いえ、今日、街の市場で果物のジュースを買って来たんです。それを飲もうと思って」

「まぁ、そうなの。市場に売っているジュースはどれも美味しいわよね。ちょっと待ってて、今、もって来るわ」

女将さんは厨房の方へと行き、トレーに載せたグラスを持ってきてくれた。

「はい、どうぞ。使い終わったらお部屋に置いたままで大丈夫ですよ。ほかに御用はありますか?」

「ありがとうございます。じゃあ、最後に一つお願いが」

「はい、何なりとどうぞ」

優しく笑う。

「私、右手を捻挫しちゃって……。急ぎで手紙を出したいのですが、代筆をお願いしてもよろしいでしょうか?」

包帯を巻いた右手をチラッと見せながら言った。

本当は捻挫などしてない。だけど、私はほとんど文字を書けないので、代わりに書いてもらおうと自分で包帯を巻いたのだ。

「代筆ですか? えぇ、それは構わないですが……。右手は大丈夫?」

「ペンを握って文字を書くのが少し痛いだけなので。スプーンなどは持てるので大丈夫だと思います」

アルヴィナの筆記用具は元の世界ほど性能が良い訳ではないので、筆圧を強めにしないと上手く書けない。

「確かに捻挫をしていると手紙を書くのは少し辛いわね。急ぎなら今、代筆しましょうか?」

「はい、お願いします」

私は頭の中で考えていた文章をゆっくりと話し始めた。

所々で女将さんが怪訝な表情をしていたけれど、何も言わずに代筆をしてくれた。

「この宛先に送ってください。これ、郵便料金です」

小さなメモと小銭を手渡す。

「かしこまりました。すぐに送ったほうがいいのよね?」

「はい」

「サラさんとおっしゃったわよね? 一緒に居た方には……」

女将さんはそこまで言って言葉を噤んでしまった。

きっと私が困った顔をしていたからだと思う。

「手紙、よろしくお願いします」

私は小さく頭を下げ、荷物とグラスを持って自分の部屋に戻った。

グラスが載ったトレーをテーブルにおく。

小さな包みを手に取ると、ベットに座った。そっと中を開けると、小さな小瓶に白っぽい粉末が入っていた。

その小瓶を見つめながらレヴィンさんの話を思い出す。確か、効果の継続は約8時間と言っていた。今が夜の10時過ぎ。となると、11時過ぎに飲むのが一番いいだろう。

私はベットに横たわりながら、今日の事を思い出していた。

楽しかったたなぁ。ホント、どこにでもいる普通のカップルだった。

ハヴィスでも一緒に遊んだりしたかなぁ? うーん、それはあまり想像できない。私もルースも仕事ですれ違うことが多かったし、家ではウィリーと一緒に遊ぶことが多かった。結局、二人っきりになる事なんてそんなになかったんだろうなぁ。苦笑してしまったけど、それも私達っぽいかなと思った。

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