青の追憶 62

「ルース、ちょっといい?」

隣の部屋をノックしながら声をかける。

「サラか?何かあったのか?」

すぐに扉が開いた。

「あのさ、昼に買ったジュース一緒に飲まない?」

トレーを持ち上げながら見つめる。

「あ、あぁ。いいけど……」

そう言いながらドアを抑えてくれる。ありがと、と言いながら部屋に入ってトレーを机の上に置いた。

「はい、これ」

そう言いながら右側のグラスをルースに手渡した。

「あぁ。悪いな」

ルースはベッドに腰掛けたあと、グイっと飲み干した。お酒じゃないけど良い飲みっぷり。

私も近くの椅子に座ってジュースを飲む。爽やかな酸味と甘みが喉を潤した。

「これ、すごく美味しいねぇ。新鮮なものは味が違うわ」

「そうだな」

「ところで、ルースは何か読んでたの?」

ベットに本が伏せて置いてあったのが気になった。

「これか。今日、本屋で買ったんだ」

「どんな本?」

「簡単にいうと戦争の本。『カル戦記』っていって、今、結構流行ってる」

「戦記ものか。難しそうなのに流行っているなんてすごいね。それって史実?」

「いや、創作だ。俺も読むまで分からなかったけど、戦記ものといっても冗談あり、恋愛あり、騙しあいありと盛りだくさんで意外と読みやすい。だから人気あるんだろうな」

「へぇ、そうなんだ。私も文字が読めたら良かったのに」

私は話せるけれど、文字の読み書きとなると、小さい子供よりも出来ないレベルだった。

「これからゆっくり覚えればいいだろ。ウィリーと一緒に勉強すればいい」

「あ……、そっか。そうだよね」

「どうかしたのか?」

「いや、なんでもない。そういやルースって意外と本読むよね。なんか未だに想像つかなくて」

ハヴィスで暮らしていた時からちょくちょく本を読む姿を見かけていた。旅に出るようになってからは、新聞や雑誌を読んでいる。

「想像つかないって……。俺ってそんな風に見えるのか?」

「どっちかっていうと、外で体を動かしているように見える。ほら、ハヴィスのジェラルドさんとか、この街のレヴィンさんとかは本を読みそうなタイプ。神官だし。あ、でも同じ神官でもセーファスさんは本とか読まなさそうだよね」

「……つまり、おれはセーファスと同じように見える、と?」

ちょっと睨まれた。

「いやいやいや、悪い意味ではないんだって。なんていうの?ほら、ルース達は体育祭ですごく活躍するタイプってことだよ」

「タイイクサイ?」

「学校でかけっことか競争する大会の事」

「あぁ、運動大会のことか」

こっちではそのままのネーミングなんだ。

「それそれ。本とか読むよりも、そういう大会でルースやセーファスさんは活躍しそうだなーっと思って。実際の所どうだったの?」

「普通だと思うけどな。負けた競技もあるし」

「へぇ、珍しい。どんな競技?」

「……創作体操」

気まずそうにルースが言った。

「創作体操?って踊ったりする?」

「まぁ、そうだ。表現力を競う」

私はテーマを元に優雅に踊るルースの姿を想像して吹き出してしまった。

「も、もしかして“自由”とか“希望”とかをテーマにして踊ったりするの?」

若干、声が震えてしまった。

「……そうだよ」

「似合わない!なんでその競技に出ようと思ったの?」

「俺だって出たくなかったよ!だけど、当日それに出る奴が病気になって、残りのメンバーでジャンケンしたんだよ。で、負けた。今、思い出しても恥ずかしい。何が嫌ってたまにセイディにからかわれるんだ」

「セイディさんは見にきてくれたんだ」

「弁当を持ってくるついでだったんだろうけど、ちょうどその競技が昼休憩の少し前だったんだ。一番最初にやってりゃ見られなかったのに、タイミングが悪かった」

「セイディさん、イキイキしながら見ていたんだろうなー」

「家に帰ったらいきなり『ルースの踊り、素敵だったわ』とか笑いながら言ってきたしな」

その時のセイディさんの様子が目に浮かぶ。

「セーファスさんなら、創作体操でもノリノリで踊りそうだよね」

と、私が言うと

「それは分かる。あれはノリが良い奴がたいてい出る。しかも結構踊りが上手いから、それなりに盛り上がるんだ」

と、ルースが言った。

創作体操といっても、カッコイイダンスっぽいのかもしれない。

「ちなみに他の競技は?」

「走ったりするのはだいたい勝ってたな」

やっぱりな。そういうのはダントツで強そう。

「剣を使った競技もあったの?」

「あぁ、剣技があったな」

「出た?」

「得意だからな」

「勝ったんだよね」

ルースはニヤリと笑った。

「当たり前だろ。これだけは負けたくなかった」

少し誇らしげに言うその表情は文句なしにカッコイイ。

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