青の追憶 64

教会に行く前に、少しだけ馬小屋に寄ってみる。

アクアとレイモンドはよく眠っていた。私が近づくと少しだけ鼻を動かした。

「今までありがとね。帰りはルースをよろしく」

と、小さく呟き、私は馬小屋を後にした。

教会の前にはレヴィンさんが立っていた。私の姿を見ると少し怪訝な表情をした。

「そちらの洋服は?」

「あ、これは私がこっちの世界に来たときに着ていた洋服です。持ち物も……」

私は宿を出る時、アルヴィナに来た時と同じ洋服に着替えていた。何となく、あちらの世界から持ってきたものは、ここに残さないほうが良いような気がしたのだ。

「そうですか……」

レヴィンさんは軽く頷いた後、「こちらへ」と促すようにして歩き出した。

黙ったまま二人で林を歩き、洞窟に入り、大きな一枚岩の扉の前までたどり着く。

仕掛け扉を開ける操作をしながら、レヴィンさんが話しかけてきた。

「なぜ……、いらしたのですか?」

「え?」

「どうして、ルースさんとハヴィスに戻られなかったのですか?」

「……」

ゴゴ、ゴ……と音がすると扉が開き、私たちの視界にクリスタルが映る。

私はそれに近づいた。

「たとえこの国に終わりが来ようとも、ルースさんと一緒にいればあなたは幸せな人生を歩めたのではないですか?」

レヴィンさんがクリスタルに軽く触れながら言う。

「そうだと思います。ルースと最後の瞬間まで一緒に暮らして人生を終えようって。たまたま来てしまった私が犠牲になることなんかないって何度も思いました。……でも私、この国で本当にいろんな人に助けてもらったんです。嫌な事も少しはあったけど、それ以上に嬉しいことが多かった。アルヴィナが好きなんです。だから、自分が生きている事で大切な人たちの未来を奪ってしまうこと、笑顔が消えていく事、きっと私には耐えられない」

「あなたは……」

レヴィンさんは言葉を噤む。

「自分でも偽善者だなーって思います。結局、自分が後から責められるのが怖いだけなんですから」

私は力なく笑った。

「ルースさんには、話してきたのですね?」

「はい。怒られました。……今は宿で寝ています」

「そうですか。他に何か伝えたい事などはありますか?」

「いえ、……もうないです」

「では……、よろしいですね?」

「……はい」

レヴィンさんの手が私の視界を覆い隠すと同時に、静かに目を閉じた。

徐々に意識が遠のいていく中で、いろいろな人の顔が浮かんでは消えた。

最後に見えたのは、ルースの困ったような笑顔と、晴れ渡った空みたいな青色の瞳だった。

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