青の追憶 67

もう、我慢が出来なかった。

嗚咽がもれた。涙がとめどなく溢れてくる。

「お、おい。いきなりどうしたんだよ?」

あぁ、本当によく似ている声だ。

目を閉じて聞くと、すぐ近くにルースがいるんじゃないかと錯覚してしまう。

「具合が痛いのか?」

私は首を横に振った。涙は次から次へとあふれ出てきた。

「……少し家の中で休むか?」

また首を横に振った。

「あいつの記憶に、あんたが泣く姿はほとんどないんだけどな」

困ったように頭を掻く仕草とか話し方とかも似ていた。

記憶を持っているだけあるなぁ。と神崎さんを見ながらぼんやりと思う。

「まるで俺が泣かしたみたいじゃないか」

ある意味そうだと思う。だって、ルースの声に似ているから。

あちらの世界にいたときの事を思い出してしまう。

「頼むからそんな顔で見ないでくれ。居心地が悪い」

「お客さんに飲み物も出さないで何しているの?」

いきなり後ろから声が聞こえた。

「わっ、この人泣いてるじゃない。女の人を泣かすなんてダメだよ」

「俺が泣かしたんじゃねーよ」

「えー?でも、さっきは泣いてなかったじゃない。お兄ちゃんが何か言ったんじゃないの?」

「違ぇーよ。コウタは家の中に入っていろ」

「はーい」

私の様子をチラっと見ながら、男の子がしぶしぶという感じで家の中に入る。

「あんたが泣くのって、やっぱりあいつが原因なのか?」

少し言いにくそうに神崎さんは言った。

「一つ聞いてもいいか?」

「……どうぞ」

「どうして、あいつを置いて一人で出て行ったんだ?あんたがいなくなった後、あいつは何度もそれを考えていた」

「……。」

「いつかアルヴィナの国に終わりが来ても、一緒にいられればそれでいい、とあいつは思っていた。あんたは違ったのか?」

神崎さんの問いには答えられなかった。

何度も、何度もルースと一緒にいようと思った。だけど出来なかった。

アルヴィナが少しずつ壊れていくことで、大好きな人たちの笑顔が消えていく。それらを目の前で見ることに耐えられないと、自分でも分かっていた。

だから……、ルースと一緒にいたかったけど、どうしてもそれが出来なかった。

あの時の決断は正しかったのかどうか分からない。

アルヴィナを助けることは出来たけど、結局一番好きな人を傷つけてしまった。

ルースは裏切られたって思ったかな……。そう思われても仕方ない。

私は涙を拭い、深呼吸をした。そして、立ち上がる。

「神崎さん、いきなりみっともない所を見せてごめんなさい。助けていただいて本当にありがとうございました。あ、日本に戻ったら何か送りますね」

「……さっきの質問の返答は?」

真剣な瞳だった。でも、答えられない。

「帰ります。お邪魔しました」

私は質問には答えず、一歩一歩、ゆっくりと神埼さんから離れた。

「沙良!俺と一緒に居てくれって言っただろう?」

身体がこわばった。

「お前はまた俺を置いて行くつもりなのかよ?いい加減にしろよ!」

ルースが叫んでいるのかと思った。

私はがぎこちなく振り返ると、そこにいたのは肩を震わせながら立っている神崎さんだった。

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