青の追憶 9

「ウィリー、あんまり離れると危ないよ!」

「大丈夫だよー」

ウィリーは元気に山の中を走っていく。

「ちょ、ちょっと待って!」

私は慌てて追いかけた。その後ろから聞こえてくる冷めた声。

「子供のお守りかよ、俺は」

はぁ、とため息をつくルースがいた。

今日は仕事がお休みだった。ちょっと迷ったけど、気になっていたあの山に行ってみることにしたのだ。そう、私が初めてこの国に来たときにいた山。元の世界に戻れる手がかりとかあるんじゃないか、と思ったからだ。さすがに黙っていくのは気がひけたので、セイディさんに相談した。

「山の麓くらいなら安全だから一人で行ってもいいけど、 たしかサラとウィリーが出合った所はかなり山奥よね。 そこに一人で行くのはダメよ。危ないもの」

「そうですか。ちょっと調べたい事があったのですが」

「元の国に戻る方法に関係あること?」

「はい、やはり一度見ておきたくて。何も手がかりはないかもしれませんが」

私はうつむいた。

「そういう事なら絶対行ってはダメとは言えないわね」

セイディさんは少し考え込むようにした後、

「じゃあ、ルースも一緒に行ってサラのお手伝いをしてきなさい」

と、いきなり言い出した。

「は? 何で俺が?」

ソファに座って本を読んでいたルースは思いっきり顔をしかめた。

「は?じゃないわよ。あんた護衛の仕事、今日はないんでしょ? それにあの山は切り傷によく効く薬草も採れるじゃない。ついでに採ってきなさい」

セイディさんは、丁度良かったじゃないと言わんばかりの表情だ。

「面倒くさい」

「家にたくさんあった薬草をほとんど使い果たしたのは誰? 自分で使う薬草くらい自分で調達してきなさい」

セイディさん、相変わらずルースに厳しいなぁ。

「分かったよ。行きゃいいんだろ」

「最初から素直にそう言えばいいのよ。これで安心よサラ。万が一ギルタに襲われたら、ルースをおとりにして逃げてくればいいから」

微笑みながら言う。

「物騒なこと言うなよ」

こんなやりとりがあって、私はルースと一緒にあの山に行くことになった。

そしたら「僕も行く!!」と、ウィリーもくっついてきた。

どうやら、ウィリーは薬草を見つけるのが得意らしい。セイディさんもルースがいるから平気だろうという事で反対はしなかった。

「今度ははぐれないようにしっかり見ていてよ」

と、しっかり念を押していた。

「ここにもあった! ルース、袋ちょうだい!!」

ウィリーは歩きながら次々と薬草を見つけては、ルースが持っている袋に放り込んでいく。私には全部同じ葉に見えて、違いが全然わからない。

「すごいね、ウィリー。薬草の違いが分かるの?」

「うん! ルースに教えてもらったんだ」

嬉しそうにウィリーは答えた。

「ルースって薬草の知識とかあるの?」

私は後ろから歩いてくるルースに聞いた。

「仕事上、最低限の薬草の知識くらいはないとな」

「うわ、意外」

「意外とはなんだ、意外とは」

だって、意外なものは意外だ。本を読んでいる姿を見かけたときも、本なんて読むのかと驚いた。なんというか勉強している姿が似合わない。

「サラ! ここあたりだよ、サラが僕を助けてくれた所!」

「ギルタに立ち向かうなんてたくましいな。女とは思えねぇ」

ルースは呆れた表情で言った。

「あのね、子供が獣に襲われていたら助けなきゃって普通思うでしょ。女とか関係ないじゃない」

「まぁ、そうだけどさ。やっぱりちょっと変わっている」

「そう?」

私は辺りを見回した。確かに見覚えがある。私はあっちの方向から来たんだっけ? あの時の事を思い出しながら、私は一人で歩きはじめた。

「おい、どこに行くんだ?」

「え? ウィリーと会う前にいた場所に行こうかと思って」

「一人で勝手に行くな。なんの為に俺がついてきていると思っているんだ」

あ、そっか。ギルタが出るかも知れないんだった。

「ごめん。じゃあ悪いんだけど、もう少し先まで一緒に来てくれる?」

「あぁ」

草を掻き分けしばらく進む。そして、ある場所で立ち止まった。あの時、地震にビックリしていて冷静さがあまりなかったけどなんとなく覚えている。私は地震が収まったとき、この辺りで座り込んでいたはずだ。

「ここなのか? あんたがこの国に来た時にいた場所は」

ルースが言った。

「うん。たぶんそう」

呟きなら目の前にある木に触れた。普通より少し大きいだけで、どこにでもある木だ。しばらく近くをウロウロ歩いたけど、何もなかった。手がかりになりそうな物は何一つない。少し、ショックだった。

「帰ろうか」

「もういいのか?」

「うん。何もないみたいだし。これ以上ここにいても無駄だと思う」

「そうか」

帰り道も薬草を探しながら歩く。

「これは薬草?」

「それはただの葉っぱだよ。薬草はこっち!」

「どこが違うの?」

「ギザギザがちょっと違うかな」

何度見比べても違いが分からない。

「ウィリーは本当にすごいね」

「えへへ、何度も薬草を採りにきているから」

「もしかして、私と初めて会ったときも薬草を採りに来ていたの?」

「うん、そうだよ。一人では絶対行っちゃダメってママは言うけど、ルースが一緒なら許してくれるんだ」

大人が一緒の方が安心だし、ルースの仕事は護衛だ。普通の人よりは強いのだろう。

「ねぇ、サラ。さっきは何を探していたの?」

「え?」

「大きな木の所でしゃがみこんだり、木に触ったり、周りを歩いていたでしょ?」

「えーと、それはね、家に帰るための何か手がかりがないかなと思って探していたの」

「サラの家は僕の家でしょ?」

ウィリーは訳が分からない、という表情だ。

「うん。今はウィリーのおうちが私の家なんだけど。いつか本当の家に帰らないといけないの」

私は正直に言った。

「え! なんで? サラ、ハヴィスが嫌になったの?」

「違うよ。ハヴィスは好き。だけど」

「じゃあ、ずっとここにいればいいよ!」

ウィリーは私の言葉を遮って言った。

「え?」

「サラは本当の家を災害で無くしちゃったんでしょ? ママがそう言ってた。僕、兄弟がいないからサラが居てくれると嬉しいな。面白いお話も聞けるし」

面白いお話というのは、日本の童話の事だった。桃太郎とかさるかに合戦とか覚えているのを話した事があるんだけど、川から桃が流れてきて、中に男の子がいましたって話したら笑っていた。確かにありえない設定だ。

「ね? ここに居てよ、サラ。ルースもそう思うよね?」

ウィリーはルースを見上げた。

「俺に聞くな」

「えー、なんで? ルースだって家族は多いほうが嬉しいでしょ」

「……」

ルースは何も言わなかった。

前よりは私と会話してくれたから、ちょっとは仲良くしてくれる気があるんだ、と嬉しく思っていたけど思い違いだったのかも……。

「サラ、僕のお気に入りの場所を教えてあげる! きっとサラも気に入るよ。そうしたらずっとここに居たくなるって」

ウィリーが突然言った。そう言うと、私の手を引っ張って走り出す。

「おい、ウィリーあんまり離れるなよ」

「もう山の入り口近くだから平気だって」

ウィリーのお気に入りの場所は川だった。

透き通った水が静かに流れ、キラキラと太陽の光を反射している。キレイな川の近くって空気がとても澄んでいる感じがする。私は深呼吸をした。

「キレイな川だね。ウィリーはここで友達と遊んでいるの?」

「ううん、ここでは遊ばない。僕はたまに来るけど、友達は親から山に入っちゃダメって言われているみたい」

「そっかぁ、とっても良い場所なのにね。私も気に入っちゃった」

「でしょ? だから僕とサラのヒミツね」

「うん。教えてくれてありがとう」

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