青の追憶 番外編 キーファ1

最初その噂を聞いたとき「ルースがぁ?」と素っ頓狂な声を上げてしまった。

「やっぱり驚くわよね」

母さんがしみじみと言う。

「あのルースだぞ? そういう話、今までなかったのに。いきなり女と同居? ありえねぇよ。俺も聞いてないし」

「私も驚いたんだけど本当なのよ。だってセイディとその子に会ったんだもの」

「マジで?」

俺は身を乗り出した。ルースの姉さん、セイディさんと一緒にいるって事は同居の話は本当っぽい。しかもルースが連れてきた女らしい。

「で? どんな女だった? イイ女なのか?」

いろんな意味で興味が出る。普段ルースは、女って面倒くせぇよ、と言わんばかりの態度だからだ。

「そうねぇ、ちょっとしか話していないけど、小さくて可愛い子だったわねぇ」

微妙な例えだな……。母さんにとって、小柄な女は全員“可愛い”になってしまう。どんな顔をしていても、小さければ“可愛い”だ。はっきり言ってあてにならない。誰もが振り向く美人だったとかスタイルが良かったとか分かりやすいのはねーのかよ。

白けた目で母さんを見ると、私もああいう小さい女の子が欲しかったわぁ。と全然関係ないことを言っている。ダメだ、話にならない。

「……今度ルースを呼び出して聞いてみる」

それだけ言って部屋へ引き上げた。

それにしても驚いた。あのルースが女と一緒に住んでいるなんてなぁ。

あいつ「近くにいる女はセイディだけで十分だ」とか言っていた事があったのに。というか、セイディさんは美人だし、俺にも優しいし、家族とはいえ一緒に住んでいるなんてうらやましい。

実を言うと、俺はセイディさんに憧れていた時期がある。だけど、そのときにはすでに夫がいたし、今も亡き夫一筋みたいなんだよな。俺の入る隙間が全くない。

ルースに話したら「お前の趣味は理解出来ない」と言われた。

分かってねぇな。セイディさんほどのイイ女はそうそういないってのに。見知らぬ女を家に泊めてあげる優しさと心の広さがルースには分からないのか? 

あ……、そうだ、今はその女の事を知りたいんだった。

ルースをとっ捕まえて、聞きださねぇとな。ついでになんでこんな面白いこと黙っていたんだ? と一発殴るか。

♣ ♣ ♣

後日、偶然見つけた仕事帰りのルースを捕まえて、俺の家へと来いと無理矢理連れてきた。

「キーファ、いきなりなんだよ?」

「まぁ、いいじゃねぇか」

俺はニヤニヤ笑いながらルースの肩をポンと叩く。

「……気持ち悪い。お前がそんな風に笑うとろくな事ないんだよな」

お、勘が鋭いな。まぁ、友人に近況報告だと思って話してもらおう。

「で? どんな女なんだ?」

「女?」

「すぐ分かれよ。お前が一緒に住んでいる女の事に決まってるだろーが」

「あぁ。サラの事か」

サラっていう名前なのか。それも知らなかった。

「ふーん、サラ、ねぇ」

「何だよ」

ルースが顔をしかめた。

「いや、なんか親しそうだな。お前とサラって女」

「はぁ? 何言ってんだよ。俺とサラは全然親しくない。ろくに話もしていないのに」

「でも一緒に暮らしているんだろ? しかもお前が連れてきたって聞いたぞ」

ギクッとルースが固まった。あからさまに動揺する姿を見て、ヤバイこと聞いたか? と一瞬思った。……でもコイツがここまで慌てるのも面白いな。ちょっと楽しくなってきた。

「どこで会ったんだ?」

「……山」

「山ぁ? なんだそりゃ。仕事先じゃないのかよ?」

「……仕事先にあった山」

「もういい。じゃ、次。なんでその女を連れて帰って来たんだよ。お前、面倒になりそうな事嫌いだろ?」

「俺もそう思う」

「じゃあ何でだよ」

「……」

今度は黙り込んでしまった。

おいおい、やけに口調のキレが悪い。どういう事だ? しばらく待ったが話す気配がない。

「言えないならいいや。俺が一番聞きたいのはそこじゃないしな」

「まだあるのかよ?」

うんざりした顔をされた。

「いいだろ、別に。こんな面白いこと滅多にないし」

「面白いって」

「最初に聞いたけどな、結局どういう女なんだ?」

ルースは一瞬黙った後に小さな声で答えた。

「……普通で変な女」

おい、普通と変って言葉はイコールにならないだろう。

「普通なのか? 変なのか? どっちなんだ」

「両方」

「変っていうのはどの辺りが?」

「生活習慣だな」

生活習慣が変? ダメだ。全然わからねぇ。

「見た目はどうなんだよ。美人か?」

「美人じゃないな。普通。あと、色気がない」

美人じゃない、という言葉に少しガックリきたが、こいつの言う“普通”は範囲が広いからなぁ。美人のセイディさんも“普通”に入るから恐ろしい。それにサクッと酷い事言ってる。色気がないって……。少しだけサラって女に同情した。

「お前の説明じゃよく分かんねぇ」

俺はため息をついた。

「俺だって……分かんねぇよ」

? なんか変だな、こいつ。いつもならもっとスパッと答えるはずだ。なのに、サラって女に関しては言葉があやふやになる。

「で、その女はお前の家で何してんだ? セイディさんの手伝いか?」

「いや、カリーナとモーリスの所で働いている」

「え? 働いてるのかよ」

それには驚いた。なんでまた働いているんだ? 俺が疑問に思ったことを口に出す前にルースが答えた。

「あいつは……、帰りたいって。それまで生きていかなきゃいけないから働く必要があるって」

「ずいぶんとしっかりしてんなぁ。……あれ?」

「どうした?」

「帰りたいって、家があるって事だよな。家族は?」

気がつくのが遅いけど、そりゃ家族くらいいるよな。こいつと出会うまでどこで暮らしていたんだ?

「あぁ。……言うの忘れていたけど、サラは難民なんだ。災害で家族と家をなくした」

「ならどこに帰るんだよ」

「あ、いや……、だからやっぱり故郷に戻りたいって事じゃねぇの?」

「ふーん。そうか。にしてもよ、難民って事を最初に言えよ」

「悪い」

「まぁ、いいけどな」

サラという女に関しては分からないことも多いけど、とりあえず今日はこの辺でいいだろう。後は自分の目で確かめるだけだな。

「お前、サラに興味があるのか?」

まぁ、あるって言えばあるな。というか、ルースの周りで女がいるって事は今まであまりなかったから、面白そうって思う気持ちの方がでかい。

「何? 気になるか?」

「いや、全然」

“全然”とか言っている割には、なんか態度がおかしい。

「じゃ、近いうちにカリーナの所に行ってみるか。そうしたら会えるだろ」

「……好きにしろ。俺はもう帰る」

「おぉ、仕事帰りに悪かったなー」

「何が悪かったな、だ。お前が強引に連れてきたくせに」

「そう言うなって」

「キーファ」

「何だ?」

「カリーナ達に迷惑かけるような行動はとるなよ。あと、サラに余計な事を言ったり聞いたりするな」

「やっぱり気になるんじゃねーか。お前も一緒に行くか?」

「俺はいい」

そう言い残してルースはスタスタと出て行ってしまった。

やっぱりなんかある。サラって女がどんななのかますます気になるな。

ルースの姿が見えなくなってから気がついた。

……あ、一発殴るの忘れてた。

TOPに戻る