青の追憶 番外編 キーファ3

ルースに時間が空いたら俺の家に来い、と伝えたのにいつまで経っても来ない。

あの野郎……、避けてんのか? 

俺がルースの家に行こうかとも考えたが、サラの事を話すのに本人やセイディさんが近くにいては話しにくい。仕方がないので、また強引に家に連れてくることにした。

「サラは元気か?」

開口一番、こう切り出した。

「挨拶もなしにその話題かよ」

ルースが呆れている。

「今更挨拶なんていらねーだろうが。俺が今、興味あるのはお前とサラの進展度だ」

「変な事に興味持ってんじゃねぇよ。進展なんかある訳ない」

「なんだよ、つまんねぇな。じゃあ相変わらず全然話さないのか?」

そう聞くとルースは少しだけ口篭った。

「いや、最近は話すようになったけど……」

「あるじゃねーか!」

バシッと頭を叩くと俺の手を払いのけながら

「話すくらいで進展とか言わねぇだろ。同じ所に住んでいるんだから」

と冷静に言う。……こいつ、この間は会話もないし俺は関係ない、みたいな事を言ってたじゃねーか。それが今度は話すくらいは普通だってどんな心境の変化だぁ?

 

「キーファ、サラを見に行った……んだよな?」

今度はルースが話しかけてきた。

「あぁ、行った」

「あいつ、仕事先でどんな感じなんだ?」

「心配ならお前も見に行けばいいだろ」

「心配じゃねぇよ! ただ、……慣れない土地だし、仕事あまりやった事なさそうだし、いや、本人はたくさん仕事してたとか言ってたけど」

こいつはサラの親か?

「お前、それはめちゃくちゃ心配してるって事だろう」

「違う。少し気になるだけだ」

「だーかーら、同じ事だっつってんだよ」

「で、どうだったんだよ。早く言え」

強引に話を進ませた上に、そっぽを向きながら命令口調かよ。仕方ない、教えてやるか。

「楽しそうに仕事してた」

「そうか」

ホッとした表情を見せる。やっぱり心配してんじゃねーか。俺はニヤッと笑って話を続ける。

「安心するのはまだ早い」

「? 何がだ?」

「食堂でいろんな奴から声をかけられていたぞ」

「注文とかとらなきゃいけないから当たり前だろ」

「そうじゃない。注文とか関係なくサラちゃーん! って呼ばれてた。しかも男ばかり」

「……」

くくっ、黙りやがった。大げさに言ったかいがある。男ばかりに話しかけられていたのは嘘だが、サラちゃーん! と呼ばれていたのは事実だ。よし、ここらでもう一つ揺さぶるか。

「美人ではないけど、結構可愛い女だったしなぁ。スタイルが悪い訳でもなさそうだし。あー、あと髪がキレイだったな。黒髪に見えたけど、陽の光の下で見ると少し茶色がかってて、艶々してたぞ」

ルースをチラッと見ると、顔の向きを変えて俺に表情を見せないようにしている。慌ててるか? よし、もう少しからかってやれ。

「笑顔が良かったな。ああいう風に笑いかけられると悪い気はしない。勘違いする奴も出るな、あれは。ルース、お前が連れてきたんだから、なんとかしないとヤバイんじゃねーの?」

ルースは相変わらず黙ったままなにやら考え込んでいる様子。

くくく、大満足。こいつが女の事を考えて、やべぇどうしよう? なんて慌てる姿を見られるなんて滅多にない。悪いなー、ルース。俺は面白いことが好きなんだ。

「キーファ」

「相談なら乗るぜ〜」

調子よく答える。

「お前、やけに細かく見てるな」

「そりゃ、わざわざ見に行ったくらいだからな」

「そこまで観察していると、もはや変態だな。他の奴らよりお前が一番危ない。サラに食堂で変な視線を感じたら逃げろって伝えてやらないと」

「は? 変態? 俺が!?」

冗談じゃねぇ。

「あのな、俺は女が好きだけど、変態と呼ばれるほどの変わった趣味はねーよ。それを言うならお前の方が変態じゃねーか。いきなり知らない女を連れてきて一緒に住んでよ。クールな態度を取っていても、やることやってんだろ?」

「やってねーよ!!」

即座に言い返してきた。

「どうだか」

「セイディとウィリーがいるのにそんな事出来るか!」

「って事は、セイディさんとウィリーがいなかったらしてるって事だよな。あー、やだやだ。真面目なフリしてお前は獣だな、獣」

ふふん、と嘲笑をつけてやった。

「キーファには言われたくねーよ! 女を見たらすぐにイイ女か? スタイルいいのか? ってお前の頭はそれしかないのか」

「俺は正直なだけだ。ルースみたいに影でこそこそしねぇんだよ」

「俺がいつ影でこそこそしたっていうんだよ?」

「現に今してるじゃねーか。堂々とサラとしてますって言えばいいんだよっ!」

「だから、してねー!!」

ルースが叫んだ。

 

「あんた達! うるさいわよっ!!」

勢いよくドアが開いたと思ったら、母さんが怒鳴り込んできた。あ、ヤバイ。本気で怒っているみたいだ。普段はおっとりしているだけに怒らせると怖い。ルースは「すみません」とか言って頭を下げている。

「母さん、話の内容……聞こえた?」

「ギャアギャア言っているのは聞こえたけど、内容は分からないわよ。というか店にまで聞こえてくるほどの大声で話すなら、外にいきなさい!」

ビシッと外を指差しながら言う。

とりあえずセーフだな。あの内容を聞かれたら最悪だ。ルースを見ると、会話の内容が知られた訳じゃないと分かって安心した様子だった。だよなぁ。友人の母親にあんな会話聞かれたくねーよな。それは分かる。

「悪い、母さん」

俺は大人しく謝った。

「騒がしくしてすみません」

ルースは居心地悪そうにまた頭を下げている。

「まったくあんた達は。いつまで経っても子供ね。ほらキーファ、あんたは店番に戻りなさい。ルースも早く家に帰るのよ。セイディが待ってるんじゃないの?」

母さんがため息をつきながら、少しだけ笑った。

「わかった、すぐ行く。ルースも帰るよな?」

「あぁ」

俺達は母さんの横をすり抜けて階段を下りた。

ルースが外へ出る時「さっきは悪かった」とボソッと言ってくる。大方“女の事しか頭にないのか”は言い過ぎた、とでも思っているのだろう。ちゃんと謝ってくるあたり真面目だと思う。

「いや、俺もちょっとからかいすぎた。悪い」

俺だって謝るときは謝る。調子にのってしまうのは昔からの悪い癖だ。……悪いと分かっているのに全然治らないが。

ルースは「お互い様だな」と言ってハハッと笑った。

まぁ、俺達はこういう仲だ。話が盛り上がると調子に乗ってしまい、ある事ない事言いまくって罵り合い、そして言いすぎたな悪ぃ、と元の状態に戻るのだ。正直に言うと、俺がルースをからかいすぎてルースが軽くキレ、罵り合うってパターンが多いような気もするが、それでもルースは俺と友達でいてくれる。なかなか出来た男なんだよな。本人には絶対こんな事言わないけど。

「じゃーな、ルース。セイディさんと可愛い子ちゃんにヨロシク伝えてくれ」

「可愛い子ちゃん?」

「サラに決まってるだろうが」

「……お前、やっぱり女好きだな」

ルースはやれやれと首をふる。

「けっ! 俺は最初からそう言ってるんだよ。あー、そうだ。今はまだサラに手を出していないっていうのは信じてやるけど、お前が手を出すのは時間の問題だな」

「出さねぇよ」

否定しているけど、ちょっと視線を逸らす辺りが怪しい。

「まぁ、せいぜい頑張れよ」

「キーファ、お前なぁ」

「じゃ、俺は店番だから」

ルースはまだ何か言いたげだったが、俺はヒラヒラと手を振りながら別れた。

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