青の追憶 番外編 キーファ4

面白いことは好きだが、限度を過ぎるほどからかうのは良くないことは分かっている。俺にも人並み(より少し低め)の分別はある。

だからしばらく放っておいた。

そうしたら、いきなりルースが「サラを村に送り届けるから、しばらくハヴィスを離れる」と言ってきた。どういう事だ? なんでそうなったんだ? と聞いても「親戚を探すから、やっぱり村に戻りたいってさ。さすがに一人で行かせるのは気がひけるからな」と淡々と答えた。さらに問い詰めようとしたら「決まった事なんだ」と言いやがった。

「本当に返していいのか? お前はそれでいいのか?」

「……あいつは元々帰らなきゃいけなかったんだ」

「お前ら楽しく暮らしてたんじゃないのか?」

ルースは何も言わない。

「このままハヴィスで過ごせばいいじゃねーか」

「そういう訳にはいかないんだ。何よりサラが強く望んでいることだしな」

「でも……」

「キーファ、もう変えられない」

違う。俺が聞きたいのはそんな事ではない。

「お前の気持ちはどうなんだよ」

「……」

「はー。まったくお前は」

盛大な溜め息をついた後、黙っているルースに言ってやった。

「後で泣いても知らねーぞ」

「泣くわけないだろ」

「寂しくないのかよ」

「子供じゃねぇよ、俺は。元の生活に戻るだけだ」

かー、何が“元の生活に戻るだけだ”だ。カッコつけやがって。いなくなってから気がつく事だってあるだろうが。もうこれ以上は言ってやらねー。

「それはそうと、セイディさん達は一緒に行かないのか?」

別の質問をした。

「いや、俺だけだ。村は遠いから」

「……って事は二人旅かよ」

「そうなるな」

ふーん、そうかそうか。思わずニヤニヤと笑ってしまう。

「良かったなぁ、ルース」

「その笑いやめろ。気色悪い」

蔑むような目つきで見られた。ちょっとムッとしたが「内心は二人っきりで嬉しいんだろ?」と、いつもの調子でからかってしまった。

「だから、すぐそういう方向に話を持っていくな」

「お前こそいい加減クールなフリすんのやめろ」

「俺はキーファと違ってまともな神経の持ち主なんだ」

「バカか、お前。男なんて考えることはたいてい一緒なんだよ。自分だけは違います、なんてよく言えるな」

「キーファほど酷くない」

「相変わらず女に興味はない、みたいな態度とりやがって。ならお前、サラに触れたりしてないだろうな」

「してないな」

キッパリと否定するから、切り札を出した。

「お前が小柄な女を背負って歩いている姿を見たっていう奴がいるんだけどな」

ルースが固まる。

「あれは誰だったんだろうなぁ? ルース」

「あ、あれはサラの調子が悪かったから家につれて帰る途中で」

自爆しやがった。

「やっぱりサラなんじゃねーか」

「ただ背負っていただけだろ。触れるとかそんなんじゃねーよ」

「そういや焦ってた様に見えたって言っていたなぁ。お前何かしたんじゃねーの?」

半分冗談だったのに、ルースはあからさまに挙動不審だった。

「何もしてな……」

と、言いかけてハッと口をつぐむ。……おい、そこで止まるな。

「お前……、マジで具合の悪い女を強引に?」

呆れてしまった。

「ちょっと待て!」

「最悪だな。俺の事、散々言っておきながら自分はそれかよ」

「違う! お前が考えているようなことはしてない!」

必死になって言い訳する辺りが怪しすぎる。

「俺が考えているような事……、以外の事はしてんのか。それも結構ヤバいだろ」

「あの時は……、ちょっとおかしかったんだ」

ブツブツと言っている。しかも顔が少し赤くないか? 

……こいつダメだ。最後までしてなくても絶対何かしてやがる。それを棚に上げて俺の事を女好き呼ばわりするしな。俺が女好きなのは外れていないが、自分だけカッコつけているのは許せん。

「で。サラはどうなんだ?」

「? どうって別に。あいつはいつも通りだ」

「そういう意味じゃなくて、手を出した感じはどうだったんだ?」

「……その変な言い方止めろ」

「サラの感触を思い出して赤くなっていた奴に言われたくないね」

勝ち誇ったように言うと、ぐっ……とルースは黙り込む。図星か。

「そうだよな、女って柔らかいし、触れたときの感じを思い出してニヤニヤしたい時もあるよなー。気にするな。お前の気持ちはよーく分かる」

「だから、そういう言い方は止めろ!」

今度は逆ギレかぁ?

「お前がいつまでも自分だけは違う、みたいな態度とるからいけないんだよ。お前も俺と同じだ」

「キーファほど変態じゃねーよ」

また変態って言ったな? よーし、そこまで言うなら考えがある。

「そうか……。おい、今からお前の家に行くぞ」

「何でいきなり?」

「決まってるだろ。サラに挨拶だ。あと、お前がどれだけ獣なのかをサラによーく教えてやらないとな。セイディさんにも、ルースはサラに手を出した上にしょっちゅうその事を思い出しては1人で楽しんでいるようです、と報告してやる」

「……悪かった」

謝るの早いな。もうちょっと楽しませてもらいた所だがこの辺が引き際だ。

「ちっ、仕方ねーな。言わないでおいてやるよ」

優越感たっぷりに言っておく。

「キーファと話すといつもこうだ。今日は真面目な話だったのに」

ルースはブツブツ文句を垂れている。

「俺は真面目に聞いてるんだよ。お前が俺の聞いたことに答えないからこうなったんだろうが」

結局、こいつがどう思っているのかは分からない。今聞いても仕方がないとか決まった事なんだとか言われるのがオチだ。

ルースは頭をガシガシと掻いていた。困ったときのクセだ。……何か事情があるのかもな。

「出発はいつなんだ?」

「3日後」

「帰ってくるんだろ?」

「あぁ」

「サラとは……、まぁ、故郷に帰ったとしても、同じ国にいるんだしまた会えるな。それほど悲観する事でもないか」

本当は、サラもハヴィスにずっといればいいんじゃねーの? って思っていたけど、親戚を探すっていう理由じゃあなぁ。ルースの言う通り止めることは出来なさそうだ。

それに一度離れたとしても、会いたくなったら会いにいけばいい。単純な事だ。ルースにはそれくらいの行動力はあるだろ。

「……そうだな」

ルースは頷いた。

――少し寂しげに見えたのは気のせいに違いない。

 

うーん、と伸びをしながら空を見上げると、青い空に筆で書いたような白いすじ雲が広がっていた。

ルース達がハヴィスを離れてどのくらい経ったっけ? まぁ、細かい日にちはどうでもいい。

あいつら今頃、どの辺りを移動しているのだろうか。

サラはあの笑顔でいるんだろうな。

ルースはそれを見ながらいろんな事を心配してそうだな。

くくっと笑いがこぼれた。

あーあ、一度くらい3人で酒とか飲みながら話しておけば良かった。サラは気さくに話せそうな感じがしたし、俺がサラに話しかけたらきっとルースが慌てるに違いない。それをからかいながら酒を飲んだら旨かっただろうなぁ。

……あいつら、一緒に帰ってくればいいのに。

とにかくルースが帰ってきたら、今度こそはいろいろと聞き出してやる。

女と一緒に長期間旅行するんだから、報告くらいしてもらわないとな。

ルースはうんざりした顔をするに違いない。だが、俺という友人を持ってしまった以上、仕方ないことだ。

「悪いなルース。諦めろ」

俺はニヤリと笑いながら呟いた。

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