青の追憶 番外編 1

仕事が意外と早く終わった。

部屋で少し寝るか、と思いながら家のドアを開ける。まっすぐ井戸へ向かい軽く汚れを落とし部屋へ戻ると、机の上に紙が置いてあった。なんだ? セイディの字で走り書きがしてある。

『サラがカゼをひいています。ルースが帰ってきた時に、サラがいなかったら医者の所に行っているはずだから迎えに行くように。私は夕食前には帰るから、それまでしっかり看病しなさいよ。サラの病状が悪くなっていたらルースのせいだからね』

なんだこれ。なんで俺が看病しなきゃいけないんだ。カゼなんて寝てりゃ治るだろ。いつも思っていたけど、セイディはアイツをやけに可愛がる。妹みたいに大切にしているようだ。本当の弟(つまり俺)には容赦ないのに。

♣ ♣ ♣

アイツ……、サラはいきなり俺達の前に現れた謎の女だ。

数ヶ月前、ウィリーと一緒に薬草を採りに行ったときのことだ。ちょっと目を離した隙にウィリーとはぐれてしまった。俺がウィリーを見つけたとき、一緒にいたのがアイツだ。格好も変だし、最初は言葉も通じなかった(途中からいきなり話せるようになったが)。いろんな意味で、すごく怪しい女だった。だけど、ウィリーを助けてくれたし、具合も悪そうだったから家に連れて帰ったら、そのまま一緒に住むことになってしまった。帰る家がないと知ったセイディが、ここに住めばいいじゃない、と独断で決めたからだ。

俺は最初冗談じゃない、と思った。だけど、この家はセイディの家だし、何も言えない。それに嫌になったら、俺がこの家を出ればいいやと思っていたから、放っておいたのだ。

そんな訳で一緒に住む事になった訳だが、とにかく変わった女だ。教養はあるのに、ランプのつけ方とか一般的な事を知らなかったりする。だけど、仕事はいろいろしていたらしい。ウィリーと一緒に走り回って遊んでいたり果物にかぶりついていたり、色気ねぇなぁと思っていたら、首筋に怪しい痕をつけて帰ってきたりする。子供なのか大人なのか、男っぽいのか女っぽのかよくわからない。

見た目は小柄で普通の女だ。少し長い髪の毛と大きめの黒い瞳。俺より年下だと思っていたのに、25歳らしい。ありえない。これにはセイディも驚いていた。

アイツと一緒に暮らせて、セイディやウィリーは楽しそうだった。確かに変な女だけど、俺に害が及ぶこともなかったので、結局今まで一緒に暮らしていた。

♣ ♣ ♣

メモを見ながらはぁ、とため息をつく。とにかく部屋にいるかどうかだけは確認しておくか。結局、俺はセイディに逆らえないのだ。

アイツの部屋の前に立ち声をかける。

「おい、いるのか?」

返事はなかった。静かにドアを開け、中を確認する。部屋には誰もいなかった。って事は今、医者の所に行っているのか。セイディが教えたのなら、いつも行っている病院だろう。あそこは家から近いし、待つこともあまりない。あと30分もしない内に帰ってくるはずだ。それなら、わざわざ迎えに行く必要はないよな。うん。あー、腹減った。何か食べなら待つか。

「遅いな……」

俺が家に戻ってきてから1時間以上過ぎていた。今日は珍しく病院が混んでいるのか? 帰ってこないと昼寝できねぇ。仕方ない。迎えに行くか。

 

「セイディさんの所のサラ? 30分くらい前に帰ったぞ」

「え?」

俺は病院に来ていた。病院といっても、じいさんが一人でやっている小さな所だ。そこで尋ねると、もう帰ったと言われた。おかしいな、どこに行ったんだ?

とりあえず、街をウロつく。アイツが行きそうな場所など思いつかなかったが、じっと立ち止まっているよりは歩き回っていたほうが見つけやすいと思ったからだ。

熱があるのにどこに行っているんだ? まったく人騒がせな。すれ違いでもう家に戻っているかもしれないな。……それとも誰かの所に行っているのだろうか? 一瞬、フレッドの顔が頭に浮かぶ。親しい間柄みたいだしな。優しく看病してもらっているのかもしれない。

「おぅ、ルース。難しい顔して何考えてんだ?」

ある店の前を通り過ぎようとした時に声をかけられた。声をかけてきたのは、その店の主人だ。

「いや、別に」

「そうか? やけに深刻そうな表情に見えたが。なんか悩みかぁ?」

「ちょっと、困っているじゃないの。ルース、ごめんなさいね」

奥さんが申し訳なさそうに言ってくれた。

「いえ」

「今日は買い物?」

「違います。ちょっと人を探していて」

「誰を?」

「その、……サラを」

「サラちゃん? 私は見かけてないわねぇ。あなた、サラちゃん見かけた?」

奥さんは主人に聞いた。

「あぁ、少し前に見たぞ。赤い顔しながらフラフラ歩いていたから、大丈夫か?って声をかけたんだ。そしたら、平気ですって言いながら、あっちの方へ歩いて行った」

「あっちって……山の方?」

俺は山を見ながら言った。

「山に行ったかどうかは分からねぇが、方角はそうだな」

「そうですか」

「いやぁ、なんかちょっと色っぽかったな、サラちゃん。普段は子供っぽいけど、今日はなんか違ったなぁ」

主人は遠くを見ながら呟く。

「あなた、下品」

奥さんがすかさず冷たい視線を送る。

「じゃあ、俺は行きます。邪魔してすみません」

「あら、いいのよ。ウチの人がごめんなさいね」

「ルース。サラちゃんに変な事するなよー」

「あなたっ! いい加減にしなさい!」

とりあえず、山の方角へ歩きながら考える。山の中へ入ったのだろうか? まさか、奥まで行っていないだろうな? 麓なら安全だけど、奥に行くと獣が出てくるから危険だ。俺は少し歩くスピードを上げた。

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