青の追憶 おまけ

「ウィリー、頭洗ってやる」

「うん!」

ウィリーが俺に背を向けてちょこんと座った。

石鹸を適度に手にとり、ウィリーの頭をゴシゴシこする。

「いたいよ!」

すぐに抗議の声が上がった。

そうか? あんまり強くやってないけどな。

「もっと、ママやサラみたいにしてよー」

頭を泡だらけにしたまま言ってきた。

「あぁ、悪い」

もっと優しく洗えって事か? ……って、ん?

「ウィリー」

「なーに?」

「セイディはともかく、サラと風呂に入った事があるのか?」

「うん、あるよ!」

ウィリーの顔に泡がかかった。その泡を手で拭きながら、無邪気に話しかけてくる。

「サラはお風呂が大好きなんだって」

「……そうか」

「僕の頭を洗いながら、歌を歌っている時があるんだよ」

「……」

微笑ましい光景だな。

「あとねー、外のお風呂に入るのが気持ちいいって言ってた」

「はぁ?」

外の風呂? 何だそれ。

「みんなで大きいお風呂に入るんだって。夜だと、星が見えてすごく気持ちいいって楽しそうに話してた!」

「みんな……で?」

「うん、みんなで! 知らない人たちと一緒だって。大きいお風呂いいね。僕も入りたーい」

いいな、いいな、とウィリーは繰り返し言っている。

知らない奴らと風呂? 風呂って事はもちろん……裸だろ? いくらなんでも服を着たまま入らないだろうし。まさか、男も女も一緒じゃねぇだろうな……。知らない奴らと一緒に風呂ってありえねぇだろ。しかも外? どうなってんだ、あいつの国は。

「ルース、まだ洗うの?」

ウィリーはどうしたの? という顔で俺を見ている。

「あ、あぁ。そろそろ流すか。泡が目に入らないように気をつけろよ」

「うん」

お湯でザーっと流す。何度か繰り返したあと「もういいぞ」と言うと、ウィリーは顔をゴシゴシとこすり、ぷはーっと息をした。

その後、二人で湯につかる。

「みんなで大きいお風呂に入りたいね!」

まだその話をするのか。

「あぁ、そうだな」

面倒くさくなって適当に答える。

「サラに聞いてみようかな」

「何を?」

「大きいお風呂ってどこにあるのか! ね、ルースも一緒にお願いしてみようよ。ママとサラと一緒にお風呂入りたいでしょ?」

「入りたくねーよ!」

「なんで? さっきは入りたいって言ったよ」

……ダメだ。ウィリーには男とか女の区別が全然ない。ただみんなで一緒に入ったら楽しいよね! と純粋に考えている。俺がウィリーくらいの時ってこんなだったか? というかウィリーが特別なのか?

「ねぇ、見てみてルース!」

いきなり顔にお湯が飛んできた。うわっ! と目をつぶる。

「わぁ、やった。できた!」

ウィリーがはしゃいでいる。

「これ、サラに教えてもらったんだ」

よく見ると、お湯の中で手のひらを合わせてギュっと握り締めている。指の隙間からお湯が飛び出して、俺の顔にかかったんだな。

「これね、なかなか出来なくて大変だったんだよ。上手に出来たとき、サラがよく出来たねって言ってギューってしてくれたんだ。いいでしょー」

屈託のない笑顔で言われた。

いいでしょー、じゃないだろ。子供だからってちょっとじゃれあいすぎじゃねぇか?

お湯を両手ですくい、ウィリーの顔にバシャっとかける。

「わ、何すんのルース! 自分がこれ出来ないからって僕に怒らないでよ」

「怒ってねーよ」

「ウソだー」

非難の目を向けられた。プクッっと頬を膨らませた後、いきなり笑顔になる。

「わかった! ルースもこれを覚えたいんでしょ? じゃあ、僕からサラにお願いしておいてあげるよ。今度、一緒にお風呂入った時に教えてあげてーって」

「絶対言うな!」

俺はものすごく慌てた。そんな事を言われた日には、セイディとサラから冷たい視線が飛んでくるに決まっている。セイディにいたっては何を言われるか分からない。

「なんで? 僕よりもサラのほうが教えるのが上手だよ?」

「そういう問題じゃねーよ。ウィリー、今、話したことは絶対言うなよ」

「変なのー」

ウィリーは天真爛漫という言葉がピッタリくる子供だ。

だから余計ヒヤヒヤする。いつ、爆弾発言が飛び出すかわからない。

頼むから余計な事は言わないでくれよ、と願った。

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